ダルビッシュも称えた一発が思わぬ余波…「これでいろいろな人が学べる」と前向き

丹羽政善

グリエルの一発に「向こうが上」

ワールドシリーズ初登板となったダルビッシュだが、2回にグリエルに本塁打を浴びるなど4失点で降板 【写真は共同】

 試合後、ドジャース・ダルビッシュ有の取材を終えてからアストロズのクラブハウスへ向かうと、元横浜DeNAのユリエスキ・グリエルのロッカーの周りには、二重、三重の人垣ができていた。

 後方から耳をすますも、ほとんど何も聞こえない。消え入るような声で話すグリエル。通訳もまた、ささやくようだった。それでも最後に、あるメディアがこう聞いたのは、はっきり聞き取れた。

「なぜ、あんなことをしたのか?」

 その後、グリエルと通訳がやはり小さな声で答えると、「ここまで」と球団広報が割って入った。

 あんなこと――。

 2回、先頭で打席に入ったグリエルは、2ボール1ストライクからの4球目、ダルビッシュが投じた内角高めへの2シームを左翼席に運んだ。ダルビッシュいわく、「(2シームを)狙ってると思っていた」そう。「初球のカッターですごくビックリしていたので」。それでもあえて投げたのは、「あのコースは、大丈夫」という彼の中で確信があったからだが、そうはならなかった。ダルビッシュも「向こうが上だった」と素直に認めている。

 ダルビッシュも称える技ありの一打。となると打ったグリエルがあれだけ喜んだのも理解できるが、フィールドを1周してダグアウトに戻った彼は、目をつり上げるジェスチャーをした。するとその映像は、瞬く間にSNSを通じて拡散していった。

差別発言に厳しい大リーグ機構

 目をつり上げるジェスチャー……残念ながら、それはアジア人を差別するような侮辱行為である。

 つい先月も、日本で行われた男子テニスの国別対抗戦デビス杯で、ブラジルのギリェルメ・クレザルが、杉田祐一との試合中に日本人の線審の判定にクレームを付け、その時に目をつり上げるジェスチャーをした。このときは国際テニス連盟が、すぐさまクレザルに1500ドルの罰金を科している。もちろん、これはスポーツの世界に限ったことではなく、今年2月にはトップモデルのジジ・ハディットが、同様の行為をしたことにより、謝罪に追い込まれた。

 しばらくしてグリエルが、「誰かを傷つけるつもりはなかった。日本に対してはむしろ敬意を抱いている。僕にとって彼は、ベストピッチャーの1人だ。今まで、まったく打てなかった。もし、彼を傷つけたとしたら、謝りたい」と話したことが明らかになったが、おそらくそれだけでは幕引きとはならないだろう。大リーグ機構は試合後に、「われわれは、事態を把握している。コミッショナーが明日、その選手と話をする」という声明を出したが、彼らは差別発言などに対して厳しい姿勢で臨むことで知られているだけに、おそらく何らかの処分が科されることになるはずだ。

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著者プロフィール

1967年、愛知県生まれ。立教大学経済学部卒業。出版社に勤務の後、95年秋に渡米。インディアナ州立大学スポーツマネージメント学部卒業。シアトルに居を構え、MLB、NBAなど現地のスポーツを精力的に取材し、コラムや記事の配信を行う。3月24日、日本経済新聞出版社より、「イチロー・フィールド」(野球を超えた人生哲学)を上梓する。

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