具志堅の愛弟子・比嘉大吾が初防衛 14戦連続KO王者の狙いは「井岡さん」

船橋真二郎

初の防衛戦に臨んだ比嘉

WBCフライ級世界戦  TKOで初防衛に成功し、ジムの具志堅用高会長(右)とポーズをとる比嘉大吾=両国国技館 【共同】

「統一戦、やりたいですね。大みそかでも大丈夫なんで井岡(一翔)さん、お願いします」
 若き22歳の夢は、あふれるほどに広がっていくばかり――。

 22日、東京・両国国技館で行われたプロボクシング・トリプル世界タイトルマッチのセミファイナル。WBC世界フライ級タイトルマッチは、7回1分10秒TKOで王者の比嘉大吾(白井・具志堅スポーツ)が挑戦者5位のトマ・マソン(フランス)を退け、5月に奪取したベルトの初防衛に成功した。

「誰が相手でも自分のスタイルは攻めるスタイル。自分のボクシングが変わることは100パーセントないですね」
 スタートから比嘉は攻めた。比嘉のスタイルは単純明快。満員の8500人の観衆も、すぐに引きこまれたはず。ダブル、トリプルと迷いなく左アッパーをつないでいくと、どよめきが起きる。その反応と呼応するように、また攻める。一体感を生み、感情移入しやすいスタイルは比嘉というボクサーの魅力だろう。

「大吾は練習してきたことをほぼ試合で出せるという、簡単なようで、なかなかできない能力を持っていて。ガードの崩し方、割り方、やってきたことを試合で実践してくれた」
 それでいて、比嘉が単なる猪突猛進のファイターではないことは野木丈司トレーナーの言葉どおり。マソンは長身でリーチもあるが、足はない。「中に入るのは簡単。入ってからが問題」(比嘉)なのは想定内。しっかり固められたガードをどう崩すか。この試合のテーマは、そこに尽きた。

ガード崩しの作戦成功「狙って倒しにいきたい」

挑戦者のガードを破り、攻めていく比嘉(右) 【赤坂直人/スポーツナビ】

 ガードの間から「必ず入るのはつかんでいた」というアッパーでガードを上げさせ、空いたところにボディー。ボディーでガードが下がったところに外からフック。フックでガードが開いたところにその間からアッパー。すべて手順どおり、システマチックに進むわけはないが、堅いガードに揺さぶりをかけ、「コンビネーションで空いたところを攻める」。練習で取り組んできたことを根気よく続け、しっかり結果に結びつけた。

 途中、「タフな相手でなかなか倒れてくれなくて。これは(KOは)厳しいかなと思った」という比嘉がほころびをつくるのは6回。左ボディーでマソンが上体をくの字にし、後退。続く7回、比嘉が左ジャブを突き刺すとマソンは右手を挙げ、自ら膝をつく。主審のトーマス・テイラー(米国)がカウントを進める。マソンは立ち上がったが、切れた右目の上をアピール。しばらくのドクターチェックを経て、テイラー主審は両手を交差。ここで終了を宣した。

 比嘉のパンチを受け、「右目が完全に見えなくなった」とマソン。だが、ボディーのダメージに加え、右目の傷を狙ったという比嘉の厳しい攻めに音を上げ、戦意を失ったことは間違いない。ディフェンスを得意とし、ダウン経験のない挑戦者の心を最後は折った。

「これからも倒すことにこだわって、狙わないで倒すんじゃなくて、狙って倒しにいきたい」という比嘉は、これで14戦全勝全KO。連続KOの日本記録15に王手をかけた。一夜明け会見では、記録保持者のひとりでもある浜田剛史・帝拳ジム代表が見守る中、「後ろに偉大な記録を持っている浜田さんがいて、言いづらいんですけど」ともじもじしながらも「頑張って抜けたらうれしいなと思ってます!」と宣言し、沖縄の先輩王者を喜ばせた。

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著者プロフィール

1973年生まれ。東京都出身。『ボクシング・ビート』(フィットネススポーツ)、『ボクシング・マガジン』(ベースボールマガジン社=2022年7月休刊)など、ボクシングを取材し、執筆。文藝春秋Number第13回スポーツノンフィクション新人賞最終候補(2005年)。東日本ボクシング協会が選出する月間賞の選考委員も務める。

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