“邪道”大仁田、7度目の引退は本当か? プロレスラーの「引退劇場」を振り返る

高木裕美

猪木、ブル中野、健介…… 引退の形

引退興行のために体重を昔と同じまで戻したブル中野さん 【写真:田栗かおる】

 プロレスラーの引退にもさまざまな形がある。プロレスの二大巨頭を例にとると、アントニオ猪木は98年4月4日に東京ドームで引退試合を行い、当時の最高記録となる7万人を動員。一方、ジャイアント馬場は、「生涯現役」を貫いたまま、99年1月に61歳で死去。同年5月2日に東京ドームで「引退記念試合」が開催された。

 また、かつてヒール軍団「極悪同盟」で一世を風靡したブル中野は、事実上の引退後、約15年間リングから遠ざかっていたが、結婚を機に「これから前向きに生きていくため」12年1月8日に東京ドームシティホールで引退セレモニーを実施。この日のためだけに、60キロの体重を現役当時と同じ100キロまで増量し、その後、再び40キロ減量するという、壮絶なプロ根性を見せつけた。

 佐々木健介は14年2.11後楽園でまな弟子の中嶋勝彦との一騎打ちに敗れた直後、「もう思い残すことはない」と、その場で引退を表明。かと思えば、元JWP女子プロレスの米山香織は、11年7月に引退を発表し、12.23後楽園で引退試合を行った後、最後の10カウントゴングの途中で泣き崩れ、「やっぱり辞めたくない」と引退を撤回するという前代未聞のハプニングを起こしている。

 なお、復帰した大仁田に対し、「最初の引退の時、(馬場夫人の)元子さんは号泣していた」とインタビューで話し、不快感を示していた川田利明は、2010年以後、リングには上がっていないが、引退宣言は頑なに拒否している。

還暦を越えても引き際を迎えないレスラーたち

グレート小鹿(中央)は70歳を超えても現役で戦い続けている 【写真:花田裕次郎】

 なお、大仁田は「還暦での引退」にこだわっているが、還暦を超えても現役を続けているレスラーはたくさんいる。現役最年長・74歳のグレート小鹿は、88年に46歳で一度引退をしながらも復帰し、現在も大日本プロレスの会長を務めながら、70歳を超えてタイトルも獲得。

“東洋の神秘”グレート・カブキは50歳の誕生日の前日となる98年9月7日に後楽園ホールで引退試合を行い、その後はちゃんこ屋の店主となったものの、09年にリング復帰を果たして以来、69歳の現在もピンポイントで試合に出場している。

 また、現在68歳の藤原喜明は07年に胃の半分を切除する大手術を行いながらも、“関節の鬼”としての怖さは健在だ。新日本での「引退カウントダウン」を中断した藤波辰爾は63歳となった今もカウントダウンを再開せず、長男LEONAと親子タッグを結成するなど奮闘中。全日本の重鎮・渕正信は、昨年11.27両国国技館大会にて、62歳にして59歳の大仁田と「101歳タッグ」を結成し、日本最古のベルト・アジアタッグ王座を獲得した。世間的には「定年」の年齢であるが、プロレスラーとしては、まだまだ引き際の年齢とは言い切れない。

誰も抜け出せない“邪道”の毒と呪縛

 よく「バンドの解散とプロレスラーの引退は信用するな」や「プロレスラーの引退と宮崎駿の引退だけは信用するな」などと言われるが、かくいう筆者は、“終わる終わる詐欺”常習犯のアニメ「銀魂」の大ファンであり、1999年12月31日に解散後、約5年おきに「期間限定再集結」を繰り返しているロックバンド「聖飢魔II」の信者である。 どちらも、終わるとなれば悲しいし寂しいが、いざ再開したら喜んでお金を出してしまうので、何度騙されても「復活」を喜ぶファン心理は痛いほどよく分かる。

 私自身、プロレスファン時代、大仁田の「胸いっぱいのプロレス」に涙し、心を揺さぶられたこともあった。川崎球場で観た電流爆破では、その音や火花の迫力に度肝を抜かれたし、体中が切り裂かれ、火傷だらけになっても立ち上がるその姿には、「リアル」な感動を覚えた。インディーからのたたき上げでのし上がってきた大仁田の行動力・発想力・プロデュース能力は誰もが認めるところであるし、DRAGONGATEの鷹木信悟、フリーのKAIなどのように、大仁田に影響を受けたプロレスラー・団体は枚挙にいとまがない。試合後に観客がリングを取り囲み、マットをバンバンとたたく熱狂空間を生み出すカリスマ性は、唯一無二のものである。

 かつて、大仁田は「おまえらがいる限り、FMWは潰さん!」と絶叫していたが、それが、「おまえらがいる限り、オレはプロレスラーを辞めん!」になってしまっていたら、これまでのように体力・肉体の限界が来ようが、卒業や還暦といった人生の節目を迎えようが、また「復帰」という選択肢を選んでしまうかもしれない。

 果たして、「本当に本当に本当に」これが最後の引退となるのか。引退試合はちゃんと試合として成立するのか。本当に3日後の川崎で電流爆破マッチを行うことはないのか。引退後はどんな道を歩むのか。また政界復帰の可能性はあるのか。もし、仮にプロレス復帰することになった場合、今度はどんな理由なのか。気になることはたくさんある。結局、「引退」しようが、しなかろうが、“邪道”大仁田の毒と呪縛からは、当分抜け出せなさそうだ。

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著者プロフィール

静岡県沼津市出身。埼玉大学教養学部卒業後、新聞社に勤務し、プロレス&格闘技を担当。退社後、フリーライターとなる。スポーツナビではメジャーからインディー、デスマッチからお笑いまで幅広くプロレス団体を取材し、 年間で約100大会を観戦している 。最も深く影響を受けたのは、 1990年代の全日本プロレスの四天王プロレス。

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