“邪道”大仁田、7度目の引退は本当か? プロレスラーの「引退劇場」を振り返る
猪木、ブル中野、健介…… 引退の形
引退興行のために体重を昔と同じまで戻したブル中野さん 【写真:田栗かおる】
また、かつてヒール軍団「極悪同盟」で一世を風靡したブル中野は、事実上の引退後、約15年間リングから遠ざかっていたが、結婚を機に「これから前向きに生きていくため」12年1月8日に東京ドームシティホールで引退セレモニーを実施。この日のためだけに、60キロの体重を現役当時と同じ100キロまで増量し、その後、再び40キロ減量するという、壮絶なプロ根性を見せつけた。
佐々木健介は14年2.11後楽園でまな弟子の中嶋勝彦との一騎打ちに敗れた直後、「もう思い残すことはない」と、その場で引退を表明。かと思えば、元JWP女子プロレスの米山香織は、11年7月に引退を発表し、12.23後楽園で引退試合を行った後、最後の10カウントゴングの途中で泣き崩れ、「やっぱり辞めたくない」と引退を撤回するという前代未聞のハプニングを起こしている。
なお、復帰した大仁田に対し、「最初の引退の時、(馬場夫人の)元子さんは号泣していた」とインタビューで話し、不快感を示していた川田利明は、2010年以後、リングには上がっていないが、引退宣言は頑なに拒否している。
還暦を越えても引き際を迎えないレスラーたち
グレート小鹿(中央)は70歳を超えても現役で戦い続けている 【写真:花田裕次郎】
“東洋の神秘”グレート・カブキは50歳の誕生日の前日となる98年9月7日に後楽園ホールで引退試合を行い、その後はちゃんこ屋の店主となったものの、09年にリング復帰を果たして以来、69歳の現在もピンポイントで試合に出場している。
また、現在68歳の藤原喜明は07年に胃の半分を切除する大手術を行いながらも、“関節の鬼”としての怖さは健在だ。新日本での「引退カウントダウン」を中断した藤波辰爾は63歳となった今もカウントダウンを再開せず、長男LEONAと親子タッグを結成するなど奮闘中。全日本の重鎮・渕正信は、昨年11.27両国国技館大会にて、62歳にして59歳の大仁田と「101歳タッグ」を結成し、日本最古のベルト・アジアタッグ王座を獲得した。世間的には「定年」の年齢であるが、プロレスラーとしては、まだまだ引き際の年齢とは言い切れない。
誰も抜け出せない“邪道”の毒と呪縛
私自身、プロレスファン時代、大仁田の「胸いっぱいのプロレス」に涙し、心を揺さぶられたこともあった。川崎球場で観た電流爆破では、その音や火花の迫力に度肝を抜かれたし、体中が切り裂かれ、火傷だらけになっても立ち上がるその姿には、「リアル」な感動を覚えた。インディーからのたたき上げでのし上がってきた大仁田の行動力・発想力・プロデュース能力は誰もが認めるところであるし、DRAGONGATEの鷹木信悟、フリーのKAIなどのように、大仁田に影響を受けたプロレスラー・団体は枚挙にいとまがない。試合後に観客がリングを取り囲み、マットをバンバンとたたく熱狂空間を生み出すカリスマ性は、唯一無二のものである。
かつて、大仁田は「おまえらがいる限り、FMWは潰さん!」と絶叫していたが、それが、「おまえらがいる限り、オレはプロレスラーを辞めん!」になってしまっていたら、これまでのように体力・肉体の限界が来ようが、卒業や還暦といった人生の節目を迎えようが、また「復帰」という選択肢を選んでしまうかもしれない。
果たして、「本当に本当に本当に」これが最後の引退となるのか。引退試合はちゃんと試合として成立するのか。本当に3日後の川崎で電流爆破マッチを行うことはないのか。引退後はどんな道を歩むのか。また政界復帰の可能性はあるのか。もし、仮にプロレス復帰することになった場合、今度はどんな理由なのか。気になることはたくさんある。結局、「引退」しようが、しなかろうが、“邪道”大仁田の毒と呪縛からは、当分抜け出せなさそうだ。