「切り札」大松の心残りと来季への自信 〜燕軍戦記2017〜
奇跡の勝利をもたらした2本目の代打サヨナラ弾
7月26日の中日戦、10点ビハインドを追いつき、最後は大松の一発で奇跡の逆転劇となった 【写真は共同】
「そういう(自分で決めてやろうという)気持ちもないことはなかったですけど、とにかくあの場面はまずは塁に出ることが一番大事なんで。ましてや後ろに(4番の山田)哲人もいますしね、塁に出れば今日の雰囲気だと何かしら起こると思ってたんで、とにかく若いカウントでは積極的にっていうふうには思ってました」
その初球、中日の5番手・伊藤準規が投じた147キロのストレートを、大松のバットは逃さなかった。ライトスタンドに飛び込むサヨナラホームラン──。5月9日の広島戦に続き、シーズン2本目の代打サヨナラアーチは、史上4人目のプロ野球タイ記録となった。
「もちろん期待して使ってるけど、(代打は)そんな簡単に打てるもんじゃない。それに(大松の出番は)相手がセットアッパーだったりクローザーだったり、厳しい場面ばっかりだからね。年間で5回も(ヒットを)打てば十分。それが2本もサヨナラホームランを打ってるんだから」
真中監督が大松についてそう言及したのは、その翌日のこと。監督自身、現役晩年は主にピンチヒッターで起用され、07年には年間代打安打31本の日本記録を樹立している。ただし、翌08年は代打で14打数1安打と結果を残せず、この年限りで現役を引退。そんな、代打稼業の酸いも甘いもかみ分けた指揮官ならではの言葉だった。
どうしても打ちたかった今季最終戦
だからこそ、真中監督にとってのラストゲームとなる今季最終戦は、どうしても勝ちたかった。2点を追いかける4回裏、2死一、二塁のチャンスで、その出番は回ってきた。
「最後もまた、ああいう本当にいいところで使っていただいて、意気に感じました。なんとかね、恩返しじゃないですけど、監督に勝ちをプレゼントしたいっていう一心だったんで」
初球のスライダーを見送り、カウント0−1からの2球目。甘く入ってきた変化球にバットを振り抜くと、鋭い打球が一、二塁間を抜け、1点差に詰め寄るタイムリーヒットとなった。
続く1番の坂口智隆にも適時打が飛び出して同点に追いついたヤクルトは、その勢いに乗って5回には3点を勝ち越し、試合の主導権を握る。しかし、直後に追いつかれると、最後は秋吉亮が満塁弾を浴びて万事休す。試合後のセレモニーで涙を見せた真中監督はナインの手で胴上げされ、25年間着続けたスワローズのユニホームに別れを告げた。
「この経験を来年につなげるように」
自身の成績に対しても、不甲斐ないという思いは強い。それでもシーズンを通して1軍登録から外れることなく、11年以降では自己最多の94試合に出場できたことは、大きな自信になった。
「監督やコーチに気を遣ってもらって、足のことも常に心配してもらってたし、そうやって使ってもらってここまで来たっていう感じが強いですけど、ケガなく1年できたのは本当に大きいですよ。なんとかこの経験を、来年につなげられるようにしないといけないと思います」
「いつかはお前もこの世を去る日が来る。だから忘れられないような人生を送るんだよ──」
大松がリハビリ中から好んで聞き、その歌詞に惹かれるところもあって登場曲に選んだという『The Nights』には、主人公に対する父の教えとして、そんなフレーズが登場する。
ロッテ時代には通算6本の満塁本塁打、そして4本のサヨナラ打。今シーズンも前出の2本のサヨナラアーチのほか、9月16日の広島戦では相手の胴上げ阻止につながる同点打を放つなど、大松は「記録よりも記憶に残る選手」と言っていい。
今季終了時点で通算650安打であり、自身にとって「師匠であり、目標とする選手」というロッテの福浦和也のように通算2000安打の金字塔に近づくことはまずないだろう。その代わり、これからも印象的な一打で「忘れられないようなプロ野球人生」を送っていくはずだ。