2004年 最後にして最大のCS<後編> シリーズ 証言でつづる「Jリーグ25周年」
第2戦の直前で得た「これは勝つな」という感覚
04年のCSを制した横浜FM。第2戦前、岡田には「これは勝つな」という感覚があった 【(C)J.LEAGUE】
かように注目を集めたCSの第1戦を、1−0で勝利した横浜F・マリノス。しかし監督の岡田武史は、この勝利は「実は誤算だった」と告白している。第1戦を0−0で終えて、第2戦で勝負を懸ける──。それが指揮官が当初、思い描いていたゲームプランであった。
「0−0で終わっていれば、第2戦は様子を見ながら(相手が試合に)入ってくる。ゲームが膠着(こうちゃく)した中で、どこかで1点を取って勝ち逃げする。浦和(レッズ)に勝つには、それしかないと思っていた。ところが第1戦でこっちが勝ってしまったから、次は相手が本気になって前に出てくるでしょ。だから河合(竜二)のゴールが決まったとき、『(次で)勝ち逃げだって言ったじゃねえかよ!』とさけんでいたんだよね(笑)」
一方の浦和は、第1戦の敗戦をまったく悲観していなかった。むしろ敗れはしたものの、「ウチの方が相手を上回っている」とブッフバルトは確信していた。
「なぜならウチの方が、しっかりボールを支配してチャンスも作っていたからです。勝敗はほんのわずかな差でしかない。それに次はウチのホームだから、圧倒的なサポートが得られるし、第2戦で必ず逆転できるという確信もありました。プレッシャーを感じるどころか、むしろ埼玉スタジアムで彼らを迎えるのが楽しみでしたね」
岡田は第2戦前に行ったキャンプの段階で勝利を確信したという(写真はW杯南アフリカ大会のカメルーン戦) 【写真:YUTAKA/アフロスポーツ】
「こういう感覚って、監督人生の中で何回かあるんです。ある種、『ゾーンに入る』というのかな。試合に関するすべてのことを、自分でコントロールできているような感覚。最近だと、10年のワールドカップ(W杯、南アフリカ大会)でのカメルーン戦(1−0)がそうだった。あの時も最初から『これは勝つな』という感覚だった。まあ、なろうと思ってできるものではないけどね」
「重要なポイント」となった中西の退場と三都主のゴール
浦和はCS第1戦からスタメンを2人入れ替えて臨んだ 【スポーツナビ】
対する横浜FMは第1戦からスタメンの変更はなし 【スポーツナビ】
中西が退場し、そのプレーで得たFKから三都主(左)がゴール。第2戦は1−0で浦和が制した 【(C)J.LEAGUE】
「(90分が終了して)みんな悲壮感いっぱいの表情で戻ってくるんだよね。でも俺は、あまり動じなかった。まあ失点については『やられたなあ』とは思いましたよ。それでも『最後は勝つんだろうな』という確信があったから、延長戦になっても細かい指示をせずに選手を送り出しました。ピンチの場面でも、ベンチから立つことはなかった」(岡田)
第2戦の90分が終わったところで、トータルスコアは1−1。試合は延長戦に入るが、当時は追加点が決まれば試合終了というVゴール方式であった。「おそらく岡田さんはPK戦を望んでいたんでしょう」とブッフバルト。しかし当の岡田は「Vゴールでウチが勝つだろう」と、あくまでポジティブに考えていたという。そんな中、今度は浦和にアクシデントが発生。得点源のエメルソンが、延長後半14分に河合の顔面をひざで蹴り、こちらも一発退場となる。ほどなくして、延長戦終了のホイッスルが鳴った。