連載:初めてのセイバーメトリクス講座

得点能力が高い打者は誰!? 初めてのセイバーメトリクス講座(3)

カネシゲタカシ

選手の得点能力を示す指標(1)

セ・リーグでは広島の丸が高い得点力を誇る 【写真は共同】

鳥越:さて、IsoPは長打、IsoDは四死球に特化したセイバー指標でした。では今度はその選手の得点能力の指標を勉強しましょう。

カネシゲ:得点能力?

鳥越:OPSだと単純に打ったり塁に出たりというだけじゃないですか。それだけじゃなく、盗塁、犠打、犠飛なども含めて総合的に選手がどれだけの得点能力を持つかという指標を作ったんです。

カネシゲ:ほうほう。

鳥越:まずはこれです。「RC(ランズクリエイテッド)」。使っている指標は安打、四死球だけじゃなく盗塁、盗塁死、併殺打、犠打、犠飛なども含まれます。式はこうなっています。

RC=(A+2.4C)(B+3C)/9C−0.9C
A=安打+死球−盗塁死−併殺打
B=塁打+0.26(四球+死球)+0.53(犠飛+犠打)
C=打数+四球+死球+犠飛+犠打

カネシゲ:うわ、これは難しい!

鳥越:ややこしいところをすっ飛ばしてざっくり説明しましょう。RCは以下のような概念で成立しています。

(出塁能力)✕(進塁能力)/(出塁機会)

カネシゲ:「出塁能力」と「進塁能力」?

鳥越:はい。出塁能力はズバリ、塁に出る能力のこと。進塁能力は長打力に加えて盗塁、犠飛、犠打などの、塁を進める総合力のことです。この2つの掛け算で選手の得点創出力を示そうとしているイメージです。

カネシゲ:分母の「9」とか、「−0.9C」っていうのは?

鳥越:ひとことで言えば“調整"です。実はこの数式は「標準的な8人の打者(出塁率.300、長打率.375)と打線を組んだときに生み出せる得点能力から、標準的な選手8人が生み出せる得点能力を引いたもの」という仕組みになっています。

カネシゲ:な、なんでそんなややこしいことを?

鳥越:チームの全打者のRCを合計すると、シーズン中のチームの総得点とほぼ一致するようにしているんです。

カネシゲ:なるほど。わかったような、わからないような……。

鳥越:ここは難しいです。RCは説明するのも、わかりやすく理解してもらうのも難しいです。

カネシゲ:と、とにかくザックリ理解するとしたら、出塁能力と進塁能力の掛け算で得点能力を計算しよう! ってことでいいですか?

鳥越:それで大丈夫です。 で、このRCを使って出す指標が「RC27」です。

カネシゲ:あーるしーにじゅうなな?

鳥越:式がこうなっています。

RC27=27×RC/TO
TO=打数−安打+犠打+犠飛+盗塁死+併殺打

その打者が1試合27個のアウトを取られるまで全打席に入ったと仮定した場合に、何点取れるかという指標です。

カネシゲ:あ、これは面白い。「打者全員イチローvs.打者全員松井秀喜」みたいなことが実際に算出できるってことですよね?

鳥越:そういうことです。今年のランキングを見てみましょう。

2017年9月18日現在。規定打席到達の打者を対象 【資料提供:鳥越規央】

鳥越:OPSとほぼ似た順位になるんですけど、例えば打線の1番から9番まで柳田悠岐だったら1試合平均9.2点取れると推定されます。

カネシゲ:す、すごい。投手はたまったもんじゃないな……。でもこれは打撃力だけですもんね。実際に「柳田9人」が守備にも就くとしたら話は全然変わってきますよね(笑)。

鳥越:ちなみに歴代の最高値が1974年の王貞治さんで14.98でした。

カネシゲ:なんと、今年の柳田より5点以上も多い! それに王さんは元投手だから、本当に「王貞治9人」でチームを組んでも攻守にわたって無敵だったかも。……ん、待てよ。そういう意味じゃこれ「大谷翔平(北海道日本ハム)9人」だったらとんでもないチームになるんじゃないですか?

鳥越:去年の大谷のRC27は8.88ですね。そして投手としての防御率が1.86だったので……大谷9人で「8対2」で勝てるという計算になるでしょうか(笑)。

カネシゲ:これはもう異次元の世界だ!

選手の得点能力を示す指標(2)

鳥越:さて、RC27の次はこれです。「XR(エックス・アール)」です。まずは式から見ていきます。

XR=0.5×単打+0.72×二塁打+1.04×三塁打+1.44×本塁打+0.34×(四球+死球−故意四球)+0.25×故意四球+0.18×盗塁−0.32×盗塁死−0.09×(打数−安打−三振)−0.098×三振−0.37×併殺打+0.37×犠飛+0.04×犠打

XR27=27XR/TO
TO=打数−安打+犠打+犠飛+盗塁死+併殺打

カネシゲ:うわ〜、もう嫌がらせじゃないですか、これ!

鳥越:XRは「Extrapolated Runs」で期待される得点力という意味です。「これくらいの成績であれば、この選手はこれくらいの得点力がある」と推定する式を統計学によって生み出したんです。

カネシゲ:なにがなんだか、もうね。

鳥越:でも注意深くみると、分かりますよ。単打が0.5点分だと思ってください。二塁打は0.72点。三塁打が1.04点、ホームランが1.44点。四球と死球から敬遠を引いたものが0.34点と。このような得点期待値を実際のデータにあてはめて算出します。でも出て来る数値はさっきのRCと似た数字になってくるんです。

カネシゲ:えっ、じゃああまり意味ないんじゃないですか? どちらか一方でいいですよね?

鳥越:でもアプローチの仕方が違うんです。RCは「出塁能力と進塁能力との掛け算で出した得点能力」、XRは「統計学の回帰分析で個々のファクターの重みを計算して出した得点能力」です。別のアプローチですが、同じような数値になるんです。

カネシゲ:どっちが優れているか、というのではないんですね。

2017年9月18日現在。規定打席到達の打者を対象 【資料提供:鳥越規央】

鳥越:これがXR27でのランキングです、だいたいRC27と似た数字になります。

カネシゲ:そうですね。順位がちょっと入れ替わっているぐらいですね。

鳥越:例えれば視聴率をビデオリサーチとニールセンで調査したみたいなものですね。ニールセンは日本から撤退しちゃいましたけど。

カネシゲ:あー、その例えはわかりやすい(笑)。一応両方で見ておこうか、くらいの。

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著者プロフィール

1975年生まれの漫画家・コラムニスト。大阪府出身。『週刊少年ジャンプ』(集英社)にてデビュー。現在は『週刊アサヒ芸能』(徳間書店)等に連載を持つほか、テレビ・ラジオ・トークイベントに出演するなど活動範囲を拡大中。元よしもと芸人。著書・共著は『みんなの あるあるプロ野球』(講談社)、『野球大喜利 ザ・グレート』(徳間書店)、『ベイスたん』(KADOKAWA)など。

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