広島連覇の“3つの理由” 強力打線、若手投手陣、ベンチワーク

ベースボール・タイムズ

レジェンド右腕の魂を受け継いだ若手たち

薮田(写真)がチームトップの14勝を挙げるなど、若手投手陣の台頭が目立った 【写真は共同】

 連覇を狙うチームの最大の不安材料とされたのが、黒田博樹が抜けた先発陣だった。投手陣の精神的支柱として、昨季10勝という数字以上の存在感があった黒田の不在が、チームに与える影響は少なくないと予想された。その状況下で、野村祐輔と左右のエースとされた昨季沢村賞のジョンソンが開幕直後に離脱し、さらに苦しい状況となった。だが、2年目の岡田明丈と3年目の薮田和樹が穴埋め以上の活躍を見せた。

 ルーキーイヤーから安定した投球で4勝を挙げて2年目の飛躍が期待された岡田は、4月にプロ初完投勝利を挙げるなど、威力十分のストレートを武器に、先発の軸と言える活躍を披露。オールスター後には4連勝するなど、夏場の苦しい時期に先発として試合をつくった。開幕当初はリリーフでスタートした薮田は、ビハインドの展開での登板や2イニング以上の中継ぎなどで結果を残し、交流戦からは先発を任された。そして自身7連勝の快進撃で故障者や不調の選手が続出した投手陣を救った。後半戦には2完封を記録するなど、夏場で疲弊したリリーフ陣も救って見せた。

 2人のほかにも、新人王を獲得した1年目以来の本格的な先発ローテ復帰で開幕から自身7連勝を記録した大瀬良大地、開幕当初は先発ローテに入り、交流戦から配置転換でリリーフに回り、ロングリリーフで存在感を見せた九里亜蓮、高卒4年目で初の1軍登板を果たし、シーズン途中から先発ローテ入りも果たして4勝を挙げた中村祐太ら、若手投手が先発陣を支えた。

 黒田の在籍時に先発の心得を伝授されたという大瀬良をはじめ、内角攻めに活路を見出した九里、ツーシーム系のボールで強気な攻めを見せる薮田ら、引退したレジェンド右腕の魂は、確実に若手投手陣に受け継がれ、連覇の大きな力となった。

コーチ陣への信頼と連携、名将への第一歩

 連覇の要因として、緒方監督を中心としたベンチワークも忘れてはならない。リーグ随一と言われた選手層を生かす選手起用で、チームの力を最大限に発揮した。昨年あたりから緒方監督に見られるようになったのが、各部門でそれぞれのコーチを信頼し、自身は過剰な口出しをしないということだ。投手交代は畝龍実コーチに一任し、ブルペン担当の小林幹英コーチとの連携のもとで、監督が最終的な決断を下している。

 攻撃面では、昨季から打撃コーチとなった石井琢朗コーチが、独自の理論で「アウトも無駄にしない」打撃と「どんな状況でも次の1点を狙う」姿勢で、驚異的な得点力を実現した。技術面では東出輝裕、迎祐一郎両コーチとの役割分担が成功している。さらにもう一人、昨季から外野守備走塁コーチに就任した河田雄祐コーチが、カープ伝統の機動力野球を復活させた。若手選手の失敗を責めない姿勢で、走塁面でも守備面でも、躍動感あふれる野球が見られるようになった。

 これらのコーチ陣が目立つのは、逆に言えば緒方監督が前に出ることなく、一歩引いた形で、最終的な責任を自らが取る姿勢を貫いているからだ。「緒方カラー」が明確でないとも思われるが、逆に言えば各コーチが思う存分、それぞれがやりたい指導ができているということでもある。

 緒方監督が呪文のように繰り返す「先を見ず、目の前の一戦一戦を戦うだけ」という言葉は、チーム全体に浸透し、1勝1勝の積み重ねが、昨季を上回る勝率につながった。前回、連覇を果たした古葉竹識監督は、14年間でリーグ優勝4回、日本一3回を達成し、球団史に残る名将の評価を受けている。緒方監督が古葉氏を超える名監督の称号を得るためには、まずは昨季達成できなかった“日本一”の座に33年ぶりに就くことが、第一歩となる。
(文中の今季成績は9月18日終了時点)

大久保泰伸/ベースボール・タイムズ

2/2ページ

著者プロフィール

プロ野球の”いま”を伝える野球専門誌。年4回『季刊ベースボール・タイムズ』を発行し、現在は『vol.41 2019冬号』が絶賛発売中。毎年2月に増刊号として発行される選手名鑑『プロ野球プレイヤーズファイル』も好評。今年もさらにスケールアップした内容で発行を予定している。

新着記事

編集部ピックアップ

コラムランキング

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着公式情報

公式情報一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント