大成功に終わった「夢スタ」こけら落とし 今治にのしかかる集客のプレッシャー
歴史的ゴールを決めた上村が向かった先
記念すべき夢スタのファーストゴーラーとなった上村。決まった瞬間、スタンドに駆け寄る 【宇都宮徹壱】
このゴールシーンで印象的だったのが、決まった瞬間に上村がベンチではなく、看板を飛び越えてゴール裏の観客の元に駆け寄ったことだ。「サポーターと喜びを分かち合いたかった」とは当人の弁だが、ファーストゴーラーとハイタッチできた観客は、きっと忘れ得ぬ思い出となったことだろう。その後も片岡のミドルシュートがバーをたたいたり、三田尚希がFKを直接狙ったり、決定的なシーンが起こるたびにゴール裏では派手なリアクションが起こる。確かに枠を外れたシュートが飛んでくるリスクはあるが、それでもむき出しのゴール裏スタンドの迫力に観客は大満足の様子だ。
今治の攻勢はその後も続く。前半44分、左サイドの上村からのクロスを長尾善公が右足で流し込み、点差を2点に広げた。しかし、エンドが替わると大分がペースを握り、後半5分に栫健悟のゴールで1点差に迫る。ここ3試合勝利がない今治としては、非常に嫌な展開。そんな中、ボランチのポジションから積極的に仕掛けてチャンスを演出する三田のプレーは、味方に勇気を与える。後半34分の3点目は、その三田からのパスが起点となった。受けた桑島良汰が左サイドを崩してラストパスを送り、途中出場のブバが右足でネットを揺らす。スタンドは完全に祝祭モードとなった。
結果として、3−1で今治が快勝したこの試合。吉武博文監督は「後半の立ち上がりで消極的になってしまい、失点してしまった。追加点を取れたのはお客さんの後押しがあったから」と総括している。一方、大分の佐野達監督は、2年前にサウルコス福井の監督として全国地域リーグ決勝大会(現地域チャンピオンズリーグ)で対戦した経験から「もっとポゼッションにこだわってくると思っていた」とコメント。後半に主導権を握ることができたのは「むしろ(ボールを)持たされている感じ。地域決勝では、とにかく主導権を握るサッカーだったが、より現実的になった」と語っている。吉武監督は否定するかもしれないが、実に興味深い証言である。
8割もの一見さんをリピーターにするために
こけら落としは大成功に終わった。今後は8割の一見さんをリピーターにすることが課題となる 【宇都宮徹壱】
「本当にサッカーを見たい人は、実はそんなに多くないと思います。でもここに来たら、他では味わえないワクワク感がある。サッカーを知らなくても楽しかった、試合は負けたけれど来てよかった。そう思えるような場所にしたい。今日のインパクトで、今後の4試合の集客が決まってくる。この楽しさが口コミで広がってくれればいいのですが」
あらためて「集客」という点から、今回のこけら落としについて考えてみたい。今治の固定ファンは、だいたい1000人弱と言われている。前述したとおり、夢スタができる以前は市外のみならず県外でも「ホームゲーム」を行っていた今治だが、ホーム開幕戦(3,065人/ひうち陸上競技場)を除いては、入場者数が700人から1200人の間を推移していた。そうした人たちを「固定ファン」と位置づけるなら、1000人弱というのは十分に説得力がある数字と言えよう。
そして今回、5000人以上の観客が集まったということは、およそ8割は物珍しさで集まってきた新規の客、つまり一見さんとなる。この一見さんをいかにつなぎとめるかが、今後の集客のカギとなる。この日の入場者数を加えて、平均入場端数は1,563人にアップした。だが今後のホームゲーム5試合のうち、夢スタが使えるのは4試合。仮に、福山市竹ヶ端運動公園陸上競技場での東京武蔵野シティFC戦を過去の実績から800人とすると、夢スタでの残り4試合を3500人以上の観客で埋めなければならない。
最後に、私見を述べる。一見さんがリピーターになるためには、確かにワクワクするような仕掛けも必要だろう。だが、それだけではいずれ飽きられてしまうし、今治のサッカーの魅力を知ってもらうには時間も必要だろう。ではどうするか。ここで観客に喚起したいのが「自分が必要とされている感覚」、つまりサポーターとしての自覚である。「自分が夢スタに行かなければ」「自分が応援しなければ」という、ある種のロイヤリティー。それを醸成するためには、今いるコアサポーターを生かさない手はない。「観戦の邪魔になるから」とスタンドの後ろに追いやるのではなく、クラブはもっと彼らと向き合ってもよいのではないか。今からでも遅くはない。まずはそこから始めてみてはどうだろうか。