サウジ戦の位置付けが明確でなかった日本 敗戦を戒めとし、本大会への再スタートを

宇都宮徹壱

1点を守り切ったサウジが2位通過を決める

1点を守りきったサウジアラビアが3大会ぶりのW杯出場を決めた 【写真:田村翔/アフロスポーツ】

 この日の試合については、監督や選手のコメントを引きながら振り返ることにしたい。まずはスタメンのチョイスについて。ハリルホジッチ監督は「岡崎と杉本(健勇)にチャンスを与えるために」大迫勇也をベンチ外とし、本田の起用については「試合勘が欠けているので45分限定で使った」と述べている。「勝利のため」というよりも、いささか温情めいたこの采配は、結果として裏目に出てしまった。本田は守備に回ることが多く、しかもディフェンス面で格段に貢献していたとも言い難い。また、相手にボールを持たせる時間帯が長かったため、岡崎が前線で孤立するシーンが目立った。

 ハーフタイム、日本は本田に代わって浅野拓磨を投入する。対するサウジアラビアは、センターFWを10番のモハンメド・アルサハラウィから19番のフハド・アルムワッラドに交代。攻撃が活性化したのはサウジのほうだった。「19番が出てくるのは分かっていた。彼ひとりで、たくさんの(チャンスの)場面を作った」と語るのはハリルホジッチ監督。ただし予想していた割には、対応がことごとく後手に回ってしまった。その大きな理由が、現地の暑さによる疲労。原口は「オーストラリア戦はコンディションが良かったけれど、今日のような気候でああいうプレーをやれというのは不可能」と語っている。

 そして後半18分、ついに要注意人物のフハド・アルムワッラドに先制点を決められてしまう。18番のナワフ・アルアビドからラストパスが出た瞬間、周りには4名の選手(吉田、昌子、長友、山口)がいたが、最後に吉田がスライディングによる阻止を試みるのが精いっぱい。山口によれば、問題はこの失点シーンだけではなかったという。いわく「サウジは後ろからつないできていたんですが、前からうまくハメにいけなくて、相手に持たれたままズルズル下がってしまっていました。失点のシーンも、真ん中に人はいたんですけれど、プレスにいってもはがされてうまく対応できなかったと思います」。

 痛恨の失点を喫した日本は、後半22分に岡崎を下げて杉本をA代表デビューさせると、さらに35分には久保裕也をトップ下に投入して(OUTは柴崎)システムを4−2−3−1に変更。さまざまな手を尽くすものの、どうしても1点が遠い。指揮官は「非常に連続したプレーも見られたし、(ゴール)ラインのところでクリアされたシーンもあった」と、決して失望していないことを強調。だがそれ以上に、サウジの気迫が明らかに日本を凌駕(りょうが)していた。そしてゲーム終盤には、ありとあらゆる時間稼ぎのテクニックを駆使してタイムアップに持ち込む。結果、1−0で勝利したサウジは3大会ぶりの本大会出場を果たし、他力状態にあったオーストラリアはプレーオフに回ることとなった。

勝利を目指すのか、チャンスを与えるのか

あくまでも勝利を目指すのか、それとも出番がなかった選手にチャンスを与えるのか。ハリルホジッチ監督が選択したのは「折衷案」だった 【写真:高須力】

 取材を終えてスタジアムを出ると、あちこちでサウジの若者たちに「日本人かい?」と声をかけられた。ある者は「どうだい、サウジはグッドチームだろう?」と上から目線で、ある者は「一緒にロシアに行こうぜ」と妙になれなれしい。スマートフォンでの2ショット写真も何枚も撮られた。こんなオッサンと一緒に写ってうれしいのかな、と一瞬だけ訝(いぶかし)んだが、もしかしたら「戦利品」のような意味合いがあったのかもしれない。それ以外にも、あちこちで「ヤパニ(日本人)! ヤパニ!」と声をかけられて、いささかげんなりしてしまった。久々にアウェーの地で味わう、ほろ苦い敗北の余韻である。

 あらためて日本の敗因を考えてみるに、「この試合にどう臨むか」が明確でなかったことが一番だったように思えてならない。あくまでも勝利を目指すのか、それとも出番がなかった選手にチャンスを与えるのか――。ハリルホジッチ監督が選んだのは、GKを含む守備陣をそのままにして、中盤と前線を大幅に入れ替える「折衷案」であった。だが、守備陣を固定する必要性はどこまであったのだろうか。とりわけ、すべての予選に出場していた吉田については、温存しても良かったように思う。

 ところで多くの日本のファンは、この試合の前にグループAの動向をチェックしていたと思われる(われわれメディアの人間も同様であった)。ウズベキスタンと韓国による注目の一戦は0−0の引き分け。この結果、韓国は辛くも本大会へのストレートインを果たし、ウズベキスタンは4位で予選を終えることとなった。3位に滑り込んだのはシリア。イランを相手に2−2の引き分けに持ち込む大健闘であった。すでにW杯出場を決めている日本のファンは、さながら「高みの見物」の気分で隣のサバイバルを楽しんでいたことだろう。ところが、続くサウジ戦での敗戦。さながら、バケツの水を被ったような気分になったものと想像する。

 幸いにしてわれわれは、1試合を残してロシア行きのチケットを手にすることができた。とはいえ、もしもサウジ戦までもつれていたら、日本とオーストラリアの立場が入れ替わっていた可能性も十分に考えられた。6大会連続、6回目のW杯出場は確かに誇らしいことではある。が、いくらライバルに先んじて予選突破を果たしたといっても、やはり謙虚さを忘れるべきではないだろう。いろいろあったアジア予選も、すべて終了。今回の敗戦を戒めとしつつ、気持ちを新たに本大会に挑む契機としたい。日本代表のみならず、サポートするわれわれファンにとっても。

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著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

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