広島・赤松、V2迫るチームへメッセージ 「特別なことをしないのが一番」

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みんなと一緒にいられる喜び

「暗いところを見せても面白くない」と自らのポリシーを語る赤松 【写真:BBM】

 野球を始めてから、これほど長く野球と離れたことはありませんでした。あらためて触れてみて、「僕には野球しかない」とさらに強く感じました。生活の一部が野球という感じです。

 野球がなくなってしまうと、リズムが分からなくなって生活ができないんですよ。今なら朝から昼まで練習して家に帰るというリズムがあるのですが、それがなくなってしまいました。これは僕だけではなく、仕事をされている方なら誰でもそうだと思いますが。だから野球をしているほうがラクに感じるんです。野球をやっているときはしんどいんですけど、離れてみて、やっぱりやりたくなる。やっているのが普通に感じる。今は体力的に落ちているので大変ですが、プレーすると楽しく思えます。

 7月11日に3軍で復帰したときには、ほかの選手としゃべったり、冗談を言いながら練習できるのが楽しいし、うれしかった。動けない自分が悔しい思いもありましたが、みんなと一緒にいられる喜びのほうが大きかったです。

 僕の考えなのですが、暗いところを見せても面白くないと思うんです。

 そりゃあ僕だって暗くなってしまうことはありますよ。僕のエラーで負けてしまった試合は何度もありますし、そのときに明るくしていたら「こいつバカか」と思われてしまうので空気を読みます。だけど、本当は自分のエラーで負けたとしても、あえて「ああ、した。した」と言いたいタイプなんです。もう終わったことなのだから引きずっても仕方がないと。

 例えばこういうことがあるんですよ。若い選手と「今日、試合終わったらご飯に行こう」と約束していて、その選手がエラーをしたら「今日はちょっとやめておきます……」と。でも、僕は「おいおいおい」となるわけですよ。「何を引きずっているんだ。そうじゃないだろう」って。もちろん反省はあります。でも、野球は毎日続くわけですから、僕は明るいほうがいいと思います。ついついマイナス思考になってしまいますが、後々のことを考えたら「よし、次頑張ろう」と考えたほうが。「よし、次もエラーしてやろう」とか。そんなふうに考えるヤツはいないと思いますけどね(笑)。

 現在は特にそうですね。胃がんが分かったときに言われたのが、「良かったね。胃カメラをやっていなかったら死んでたよ」ということだったんです。そこで初めて、自分の体と死がイコールで結びついたんですよね。だから、今まで普通にしてきたことをもっと大事にしていこうと思うようになりました。

強いのは個々のレベルが上がったから

 チームは8月22〜24日の横浜DeNA戦で3試合連続サヨナラ負け。23日には(鈴木)誠也が骨折し、離脱してしまいました。

 野球はチームプレーと言われますが、結局は個人プレー。個人がどれだけ意識をできるかでチーム力は上がると、僕は考えています。気の緩みというのは、個人の緩みが増えてきて、それが結果的にチームの緩みになるんじゃないかと。

 カープが強いのは、個々のレベルが上がってきたからだと思います。菊池、丸(佳浩)、誠也、會澤(翼)……。投手で言えば岡田(明丈)や薮田(和樹)もそうです。そういった存在がポンポンと出てきているからこそ、みんなが引っ張られて強くなるんです。でも、逆に彼らが落ちていったときに、みんながついていってしまう。野球にはそういうことがあるんです。特にカープは若い選手が多いから、引っ張るヤツらについていけた。

 一昨年、あと1勝でクライマックスシリーズ出場を逃す悔しさを味わうなど、だんだんと下地を積んできたので簡単には崩れない強さがあると思うのですが、現在、マジックが出てからとんとん拍子にはいかないのは、優勝を焦っているわけではなく、純粋に今の個人のレベルだと思っています。

 昨年の8月5、6日にはマツダスタジアムで2位の巨人に連敗し、ゲーム差4・5まで迫られたことがありました。しかし7日には新井(貴浩)さんのサヨナラ二塁打で勝ちました。それ以前のシーズンにもいいところで巨人に3タテを食らったことがあったんです(2014年9月2〜4日)。そのときはこちらが追いかける立場でしたが、そこでの敗戦でズルズルと落ちてしまった。その経験があるからこそ、最後の1勝を取れたことは大きかった。1つの勝ち、1つの負けでシーズンの流れがガラッと変わることがあるんです。特にカープは先ほども言ったように若いチームですから、勢いがすごい。切り替えをすぐできるのは、いいチームだな、と感じるところです。だから、引きずらないのが一番いいと思います。

 それが顕著なのは丸です。ミスがあっても「はいはい。しゃーないしゃーない。次、次」と切り替えられる僕と一緒のタイプ。チームを引っ張っていくレギュラーがそういうタイプだといいですが、それだけではなく、個人個人がどれだけ気づき、できるか。無意識でやるのと意識してできるのとではまったく違います。意識してできるようになってからが一人前だと、僕は考えています。

代走、守備固めの経験を生かさないと

再びマツダスタジアムを駆け回る姿をファンだけでなく本人も待ちわびている 【写真:BBM】

 今、1軍で昨季の僕と同じような役割(代走、守備固めなど)を担っているのは野間(峻祥)でしょうか。見ていてもすごく研究していると感じますし、今のポジションを大事にしているのだと思います。ですが、僕が言いたいのは、本当に考えているかどうか。ちゃんとノートを取って、しっかりプレーをイメージづけておかないと、自分がもしレギュラーで出たときに、今やっていることが生きないんですよ。

 僕は阪神時代、代走や守備固めで途中出場することもありましたが、そのときには何もデータを取らず、自分の能力だけでぶっつけ本番で出ていました。ときにはピッチャーのモーションを盗むこともありましたが、「動いたら行け! 盗塁のサインが出たら行け!」というように。

 しかしトレードで広島に移籍した08年は125試合に出ましたが、12個しか盗塁してないんですよね(前年には28試合で8盗塁)。阪神での3年間では36試合にしか出ていませんが、ほとんどが代走か守備固め。もしそこで、塁に出たときにしっかりデータを蓄積していれば……。125試合ならもっと企画数はあったはずなんです。それが12個しか走れていなかった。だから、野間にもそこを言いたいんです。今がレギュラーをつかむためのチャンスなのだと。

 いきなりレギュラーになれる選手なんてほとんどいません。代打や代走、守備固めでアピールし、スタメンで起用される。そこでそれまでの経験を生かさないと、現在がただ単にプレーしているだけになってしまう。代走でも相手の配球やクセを研究しないといけません。そうすれば足の速いランナーが一塁にいる状況で打席に立った際、同じシチュエーションができるんです。データがパッと出てくる場合がある。そうなると打ちやすくなりますよね。ちょっとノートを取っているだけで、ラクに打席に立つことができる。それを今からやってほしい。

 野間なんて特に、今のポジションが天職ではないんです。走攻守そろっていて、レギュラーになれる能力はある。8人しかいない野手のスタメンを勝ち取ることは簡単ではありませんが、代走や守備固めでもベンチ入りはできているわけですから。そこでどれだけ勉強できるかで、これからが変わっていきます。野間だけではありません。内野の守備固めの(上本)崇司などもそうです。そういったことを考えてプレーしてほしいですね。

マツダに帰ってきて盗塁できたら……

 チームメートには、特別なことをしないのが一番だと伝えたいです。連敗をしてしまったり、自分の調子が悪いときは、チームとしても個人としても応用を追い求めてしまうんです。そうなると基本的な部分でほころびができてしまう。そうしないためにも、戻れる場所をつくっておかないといけません。それが、基本的な部分だと思います。

 その原点を守っていれば、徐々に体力が回復するにつれて調子も上がっていく。しかし、コンディションの悪いときに応用を求めようとしたら、さらに下がっていってしまうこともある。苦しいときほど基本に戻る。僕はそれが最も大切なことだと考えています。勝っているときもそう。天狗になるのではなく、連勝しているときでも普通が一番。今、自分ができることをやれば、結果はおのずとついてくるのではないでしょうか。

 ファンの方にはとても多くの手紙や千羽鶴をいただきました。僕よりももっと重い症状の方――今も入院されている方や末期の方からのメッセージもありました。そこで、「僕は動けるじゃないか」と思ったんです。普通の生活もできるし、ランニングや野球もできる。それなのに、マイナスな気持ちになったり、「動けない」とか「しんどい」とか弱音を吐くのは失礼だと。同じ病気になり、動くこともできないような方もいるんですよね。がん患者代表というわけではないですが、それくらいの気持ちでやっています。

 僕は小林麻央さん(乳がんのために6月22日に死去)に勇気をいただきました。病状は進行しているはずなのに、ほぼ毎日ブログを更新し、つらくないような表情で写真を撮り、本当にすごい方だと感じました。僕も、それをできる立場なんじゃないかと思うんです。

 スポーツ選手という職業だと多くの方が見てくれる。そこで少しでも勇気を与えられたらと思い、ブログを更新したり、ファンの方と話したりしようとあらためて感じました。そのきっかけを与えてくれたのがファンレターで、本当に僕の心を動かしてもらいました。すべての原動力になっているように感じています。

 一般の方だったら、そのような手紙や千羽鶴をもらう機会は少ないかもしれない。たくさんの人に応援していただいていることを感じられるのは、本当に特別なことだと思うんです。ほとんどの方は一人や、家族と一緒に頑張っている。そういう方が僕を見て勇気を持ってくれるのであれば、僕はやらなければいけない立場。だからいっそう頑張っていくつもりです。

 マツダスタジアムでプレーする姿を見せられれば最高です。自分でも想像します。マツダスタジアムに帰ってきて盗塁をできたら、すごい歓声だろうなって。

 そこが目標ではありますが、いきなりジャンプアップはできないですから、一つひとつ上がっていくつもりです。最悪、1軍でプレーはできなくとも、その過程を踏んでいれば僕は満足です。

 今は一歩一歩、無理をせずに頑張っていきます。

(取材・構成=吉見淳司 写真=筒井剛史、BBM)

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