群馬で再起を誓うカン・スイルの告白
元韓国代表がJ2で戦う理由と、壮絶な覚悟

群馬で存在感を示す韓国人ストライカー

5月にザスパクサツ群馬に加入したカン・スイルにこれまでの苦悩の日々、新天地にかける思いを聞いた
5月にザスパクサツ群馬に加入したカン・スイルにこれまでの苦悩の日々、新天地にかける思いを聞いた【スポーツナビ】

「ゲームを通じて一度だけ訪れたチャンスを決めることができました。クロスを上げてくれたチームメートに感謝したいです」


 そのシュートスピードは「モノが違う」と感じさせるものだった。

 20日のJ2第29節ツエーゲン金沢戦後に、ザスパクサツ群馬のカン・スイルはこう口にした。右サイドからのクロスを胸トラップし、右足ボレーで1−1に追いつく同点ゴールを決めた。


 J2残留争いと、韓国代表招集歴のあるストライカー。


 この組み合わせがどう作用するか。ストライカー、カンの存在感にはそういう楽しみがある。


 今年5月にチームに加わった。今季はJ1からJ3まで計55人の韓国人プレーヤーが在籍するなか、韓国での認知度は中でもトップクラスだ。柏レイソルでプレーするキム・ボギョン、サガン鳥栖のチョ・ドンゴンに次ぐ、と言える。


 群馬は第30節を終えた時点で4勝3分け23敗、J2最下位に沈む。現在、14試合連続未勝利という苦しい状況にある。そんな中、第27〜29節で3試合連続ゴールと気を吐いた。


 5月13日のJ2第13節で初出場を果たすや、第14節からチームは3連勝。一時は降格圏を抜け出した時期もあった。そこまで1勝だったチームが、カンの先制ゴールもあり、首位アビスパ福岡をアウェーで3−1と大破したゲームもあった。Kリーグ1部で通算173試合出場の24ゴール、韓国代表招集歴はだてじゃない、と印象付けるスタートだった。


 6月18日の第19節から7月8日の第22節まで軽微な負傷で欠場した。その後、自身はゴールを挙げながらもチームは停滞している。今後、カンの「大爆発」がチームを勝利に導くのか。J2残留戦線に大きな影響を与えそうだ。


「運動量、高さ、スピードでチャンスを作るスタイル。ゴールに対する意識も高めている」


 本人は自身の特長をこう語る。その姿を見ればすぐに分かる。黒人(父)と韓国人(母)のハーフだ。


 韓国代表招集歴のあるストライカーにとって、J2のサッカーはどう映るのか。群馬での日々に思うこととは。韓国社会でハーフとして育ってきた思い、そしてなぜカンがJ2下位のクラブにいるのか。本人に話を聞いた。

「普通」の韓国人ではない

Jリーグの印象を問われ、「守備ラインが思ったよりも低い」と他のコリアンJリーガーたちと少し違った観点を持つ
Jリーグの印象を問われ、「守備ラインが思ったよりも低い」と他のコリアンJリーガーたちと少し違った観点を持つ【(C)J.LEAGUE】

 筆者自身、幾多のコリアンJリーガーを取材してきた。Jリーグの印象は? というお決まりの質問にはおよそこんな返事が返ってくることが多い。「味方の精密なパス」「戦術的に細かい」あるいは「韓国ほどフィジカルコンタクトが激しくない」。しかしカンはJ2リーグを数試合戦った時点でこんなことを感じていた。


「守備ラインが思ったよりも低いと感じます。スペースがないから思った以上にチャンスが作れない。Kリーグでは1試合で必ず1度はラインをくぐり抜けて、GKと向き合うシュートシーンがあった。でもここでは数試合に1度、といったペースです。自分の力が足りないのか、周囲とのコンビネーションが足りないのか。この課題に取り組んでいるところです」


 他のコリアンJリーガーたちと少し違った観点を持つ。その理由として、彼の立つピッチがJ1ではなくJ2だという点があるだろう。一方でそのバックボーンとの関係性も考えうる。


 外見の通り「普通」の韓国人ではない。思えば幼き頃から、日本に対する関心は周囲の仲間より低かった。日本のアニメをいくつか見た。日本のサッカーも見聞きしたことがあったが、「基本技術が高い」というイメージがある程度。周囲にはJリーグでプレーしたがる選手も多かったが、自分はチェコ、ロシアのような東欧のリーグを含めたヨーロッパに関心があった。


 184センチ、74キロの体躯(たいく)。浅黒い肌。そんないでたちのカンに、ずけずけと聞いてみた。中身は、韓国人と考えてもいいですか?


「いやぁ、純粋な韓国人ではないでしょうね。やっぱり。米国人の父の影響から自由な発想はあると思います。韓国では厳格な上下関係については……自分は先輩をイジることもあるんですけれど、後輩は俺をイジるなみたいなところがあって! よくないんですけどね!」


 オープンな性格で周囲とコミュニケーションをとる。勝利の後にサポーターと一緒に写真に写るパフォーマンスで一気に群馬サポーターの心をつかんだ。寮の厨房のお母さんが料理を韓国風にアレンジしてくれることに感謝している。チームメートに韓国人選手がおり、時折キムチを持ち寄って食事を共にすることもある。オフの時間には「温泉やサウナをよく楽しんでいる」という。日本語がもっとできれば、ここでの生活をもっと楽しめる、とも思っている。猛勉強中だ。

吉崎エイジーニョ

1974年生まれ、北九州市出身。大阪外国語大学(現大阪大学外国語学部)朝鮮語科卒。『Number』で7年、「週刊サッカーマガジン」で12年間連載歴あり。97年に韓国、05年にドイツ在住。日韓欧の比較で見える「日本とは何ぞや?」を描く。近著にサッカー海外組エピソード満載の「メッシと滅私」(集英社新書)、翻訳書に「パク・チソン自伝 名もなき挑戦: 世界最高峰にたどり着けた理由」(SHOPRO)、「ホン・ミョンボ」、(実業之日本社)などがある。ほか教育関連書、北朝鮮関連翻訳本なども。本名は吉崎英治。

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