ACL準々決勝、川崎先勝の鍵は阿部と憲剛 浦和の“付け焼き刃”の対策は奏功せず

飯尾篤史

出場時間を限定することで、中村の力を引き出す

熱帯夜にもかかわらず、2か月後に37歳となる中村の運動量は際立っていた 【写真:西村尚己/アフロスポーツ】

 また、熱帯夜にもかかわらず、2カ月後には37歳になる中村の運動量が際立っているのも興味深い。

 1点目のドリブル突破に限らず、相手の3ボランチの脇でボールを受けたかと思えば、味方のディフェンスライン近くまで戻ってボールを引き出し、相手ゴール前まで飛び出していく。ポジションはトップ下だが、ボランチなのかFWなのか、分からないほど走り回っている。

 その尽きないスタミナの秘訣(ひけつ)について、中村が明かす。

「途中で代わると分かっているから。今、(西川)周作にプレスを掛ける役目が自分みたいになっている。どうせ蹴られるんだからと思いながらいくのは、キツイんですよ。でも、(途中で代わると)分かっているから自分がいく」

 そうなのだ。今季の中村は70分前後で家長昭博や登里享平、森谷賢太郎らと交代することが多い。だが、代わって入った選手の個性によって攻め方は変わっても、チームの核となる部分――ボールを保持して主導権を握って相手を崩す戦い方がブレたり、揺れたりすることはない。

 チームがその域に達しているから、70分前後で中村を下げ、“新しい勢い”を注入できる。逆に言えば、出場時間を70分前後に限定することで、ベテランの力を最大限引き出すことができるのだ。

浦和はラウンド16の大逆転を再現できるか

9月13日に行われる第2戦の結果はいかに。トーナメント戦特有の舞台装置も選手たちの心理面を左右する 【写真:西村尚己/アフロスポーツ】

 浦和にとってよりどころとなるのは、ラウンド16での成功体験だろう。

 韓国の済州ユナイテッドとの一戦はアウェーで行われた第1戦を0−2で落とし、絶体絶命のピンチを迎えたが、第2戦で3ゴールを奪い、大逆転での勝ち上がりを決めた。

 そのときとは、監督も、チーム状態も、戦い方も違う。だが、2点以上取らなければ勝ち上がれないというシチュエーションが、川崎への過剰なリスペクトを捨て、攻撃的な姿勢を貫くことを後押しし、ミハイロ・ペトロヴィッチ前監督のもとで築いた「3−4−2−1」システムによるオートマティズムを取り戻すきっかけになるかもしれない。李忠成は力強く言う。

「次はホームなので、強気で前に出ていきたい。済州戦は3−0で勝たなければいけなかったけれど、今日は1点返しているから2−0でいい。望みは高いと思います」

 一方、川崎は相手を見ながらやり続けるだけ。守りに入る必要はなく、前に出てくるはずの浦和に対して、どこにスペースがあるのか、何をすれば相手が嫌がるのか。冷静に見極めながら仕留めるだけだ。

 9月13日に行われる第2戦。ゲーム展開と選手たちの心理面を左右するのは、2試合合計スコアによって勝敗が決まり、同点の場合はアウェーゴール数の多いほうが勝つという、トーナメント戦特有の舞台装置だ。スコアが動くたびに行われる駆け引きにも注目したい。

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著者プロフィール

東京都生まれ。明治大学を卒業後、編集プロダクションを経て、日本スポーツ企画出版社に入社し、「週刊サッカーダイジェスト」編集部に配属。2012年からフリーランスに転身し、国内外のサッカーシーンを取材する。著書に『黄金の1年 一流Jリーガー19人が明かす分岐点』(ソル・メディア)、『残心 Jリーガー中村憲剛の挑戦と挫折の1700日』(講談社)、構成として岡崎慎司『未到 奇跡の一年』(KKベストセラーズ)などがある。

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