逆境のなか若手投手の引き上げを狙う 吉井コーチの指導スタイル(4)

菊地慶剛

指導における2つの軸

8月20日にプロ初勝利を挙げた上原(左) 【写真は共同】

 チームがどんな状況であろうとも、勝利を目指しながら毎日の試合に臨まなければならない。1軍から2軍へ、2軍から1軍へと選手が入れ替わる中で、どういう点をもっとも意識しながら選手をケアしているのだろうか。

「どの投手についても言えることですが、2軍にも優秀なコーチが3人いるので、一応彼らが(2軍に)落ちる時に、『選手はこんな状態で、こんなことをやってますよ』というのを逐一報告しています。多少やり方が変わるかもしれませんが、2軍のコーチもそれに沿って選手たちが目指している方向で指導していくというかたちでやっています。

 なので選手が2軍に行ったら、2軍のコーチを信頼してほぼノータッチですね。ただ試合の後だけは本人がどう思っているのかを知りたいので、メールや電話などで確認しています(“振り返りの時間”を2軍に回っても継続していた)。今は先発3人だけですけど、これがうまくいったら全員にやっていきたいと思ってます」

 では吉井コーチ自身は2軍に回る選手たちに対しては、どのようなアドバイスをして送り出しているのだろうか。

「各選手の性格にもよるんですけど、プレーに影響しないようにですよね。これは本当に難しいんです。例えば『また1軍に上がってきてもすぐに2軍に落とされるんじゃないか』と疑心暗鬼になっている選手がいたり、別の選手は『もうオレは(1軍に)いらないんだ』と思ってしまったりと、いろいろな選手がいるので、そこはうまく使い分けながらですね。

 ただ若い選手はそういうのを含めて教育、指導だと思っています。一応自分の中で指導における指標にしているものがあって、“技術を中心に教える軸”と、野球への取り組みなどの“人間性を教える軸”の2つなんですが、若い選手はその両方を指導しなければという感じです。ちょっと技術部分ができてくると、技術の話をするとへそを曲げたりするので、今度は取り組みの部分の話をしてあげたりだとか……。そういう使い分けがあります。

 本当なら1軍の選手はこちらから何もせず見守るだけが一番いいんですけど、1軍にも若い選手がいるので微妙なところがあるんです。技術をどんどん教えていい選手もいれば、技術面を指摘すると迷ってしまうので取り組みの部分だけはちゃんと教えなければいけない選手もいる。また自分に自信がついてきて、ちょっと調子に乗っているような選手が2軍に落ちた時は声のかけ方が変わってきたりもします。その見極めが難しいですね」

 苦しいシーズンだからこそ吉井コーチの苦心ぶりが理解できるだろう。その説明からも理解できるように、投手コーチの知識、経験をもとに一律に指導するのではなく、各投手の性格、技術力、置かれた状況に応じて指導法を変化させているのだから、吉井コーチの負担は相当なものだ。それでも残りシーズンも引き続き投手陣の底上げを目指して、吉井コーチらしく投手たちと対話を続けていく。

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著者プロフィール

栃木県出身。某業界紙記者を経て1993年に米国へ移りフリーライター活動を開始。95年に野茂英雄氏がドジャース入りをしたことを契機に本格的にスポーツライターの道を歩む。これまでスポーツ紙や通信社の通信員を務め、MLBをはじめNFL、NBA、NHL、MLS、PGA、ウィンタースポーツ等様々な競技を取材する。フルマラソン完走3回の経験を持ち、時折アスリートの自主トレに参加しトレーニングに励む。モットーは「歌って走れるスポーツライター」。Twitter(http://twitter.com/joshkikuchi)も随時更新中。

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