“メークドラマ”を期待させる本田真凜 怖いもの知らずな16歳、その運命力

野口美恵

初出場で世界ジュニア優勝

初出場ながら、世界ジュニアを制覇。有力選手が直前でケガのため欠場したこともあったが、見事な演技で女王の座をつかみ取った 【写真:Enrico Calderoni/アフロスポーツ】

 迎えた16年3月の世界ジュニア選手権が、真凜にとって人生のターニングポイントとなる。この試合は、ジュニアGPファイナル覇者のポリーナ・ツルスカヤ(ロシア)が、優勝候補の筆頭。残るロシアの2人と日本の3人で、メダル争いをする構図だった。

 ところが、運命は大きく動く。ショートの朝の公式練習中に、ツルスカヤがじん帯を損傷。ショートの滑走直前に会場入りした真凜は、突然湧いた『優勝争いの緊張感』を覚える間もなく、本番を迎えた。

「ギリギリに会場入りしたので、緊張する間がありませんでした。ツルスカヤのことや順位のことを深く考える時間はなかったんです」

 もともと早めに会場入りすると、待機しているうちに緊張してしまうタイプ。会場入りの時間を遅らせた作戦が功を奏し、ショートは伸びやかな滑りで2位につけた。残されたロシア2人のうち、アリサ・フェデキチナが首位、マリア・ソツコワが3位につけた。

 翌日のフリー。最終グループ6人が、廊下で最後のウオーミングアップをしている時に、今度はフェデキチナが真凜の目の前で転倒。足首を捻挫し、泣きながら搬送されていった。

「フェデキチナが目の前でケガをしたので、自分も怖くなりました。棄権したロシアの2人が目標だったんです。彼女がいないと私がショート1番か、と思いました。でも全日本ジュニアは優勝を狙ったら緊張して力を出せなかったので、何も狙わないほうが自分にとっては良いはず。優勝はもともと考えていなかったんだから、抜かされても大丈夫、と思おうとしました」

 気持ちを整理して臨んだフリーは、パーフェクトの演技で、総合192.98点をマーク。初出場にして、世界ジュニア女王の座をつかみとった。

「来年の目標だった優勝を、もう達成してしまいました。来年は、ジュニアGPファイナルと世界ジュニア、両方の優勝を目標だって言えるようにしたいです」

無邪気な少女からアスリートへ

無邪気だった少女も、いつしかアスリートの顔に。ジュニア女王として優勝が期待される中、高いハードルを乗り越えてきている 【坂本清】

 続く16−17シーズンは、無邪気だった14歳のシーズンと違い、“ジュニア女王”のタイトルを背負うことになる。常に優勝が期待される立場の中、どう自分をコントロールできるかが試された。

 16年の全日本ジュニアは、ショート2位、フリー6位での総合3位。全日本ジュニアとしては初のメダルだったが、それを喜べる立場ではないことも分かっていた。

「優勝を狙っていたので、緊張してしまい、硬い演技になっていました。フリーは、何点出せば良いとか考えてしまいましたし、最初のジャンプで失敗して、『勝てない』と思ってしまったので……。よく3位に残れたな、という気持ちです。悔しさを次の試合にぶつけて、こんな演技ができるんだよ、というところを見せたいです」

 そう語る真凜。無邪気な少女から、アスリートの顔を見せるようになっていた。

 すると連覇が懸かった17年の世界ジュニアは、ショート、フリーともにパーフェクトな演技を見せ、ジュニア選手としては史上2人目の200点超え。ロシアの新星アリーナ・ザギトワが、ジュニアの歴代最高点を更新して優勝したが、緊張感の中、実力を出し切るというハードルを見事に乗り越えた。

「悔しい気持ちはありますが、すべて出し切っての結果なので、今やれることはできたと思います。来年はシニアに上がるので、シーズンオフ中に覚醒したいです」

 これまでにない、強い精神力を感じさせる言葉だった。

『トゥーランドット』で五輪を目指す

今季のフリーは『トゥーランドット』。荒川静香はこの曲で、06年のトリノ五輪を制した 【坂本清】

 平昌五輪を控えた17年オフ。真凜は一気に、五輪へと照準を合わせた。すでにシニアで実績を出している宮原知子(関西大)、三原舞依(神戸ポートアイランドクラブ)、樋口新葉(日本橋女学館高)らと、たった2枠を競うことになるのだ。オフの早い時期からプログラム作りに着手。ショートは、真凜自身がタンゴを希望した。

「タンゴはずっと、シニアデビューの時に使いたいと思っていました。強い感じの表現は得意なので。(振付師のジェフリー・バトルと)一緒に編集から作ったんです。かっこいいステップが最後にあって、本当に難しいので、今日はここができるようになったというのを毎日感じられて楽しいです」

 さらにフリーは、荒川静香をトリノ五輪女王に導いたことでも有名な『トゥーランドット』だ。

「やはり女王のプログラムなので、女王として完璧な演技をするプログラムだと思います。女王らしい、でも自分らしい演技をしたいです。こんなに自分に合っている滑りやすいプログラムは初めてです」

 各地のアイスショーで、ショートもフリーも披露し、本番の緊張感を持ちながら滑り込みを続けている。

「今季は五輪出場が目標。シニアデビューという大切な年に良いプログラムをそろえられたと思います。いつものシーズンオフとは違って特別な気持ちで、ショーでもノーミスの完璧な演技を目指して、自分で自分を緊張させながら滑っています」

 怖いもの知らずの16歳。その目は、真っすぐに平昌五輪へと向けられている。

2/2ページ

著者プロフィール

元毎日新聞記者、スポーツライター。自らのフィギュアスケート経験と審判資格をもとに、ルールや技術に正確な記事を執筆。日本オリンピック委員会広報部ライターとして、バンクーバー五輪を取材した。「Number」、「AERA」、「World Figure Skating」などに寄稿。最新著書は、“絶対王者”羽生結弦が7年にわたって築き上げてきた究極のメソッドと試行錯誤のプロセスが綴られた『羽生結弦 王者のメソッド』(文藝春秋)。

新着記事

編集部ピックアップ

コラムランキング

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着公式情報

公式情報一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント