チェルシーは早急に戦力の底上げが必要だ 不満をためるコンテが望む「120%」の努力

山中忍

現状の新戦力は補填にすぎない

アルバロ・モラタ(右)は昨夏にコンテが獲得を切望していたFWだが、今夏はロメル・ルカクが第1希望だった 【写真:ロイター/アフロ】

 そのチームには開幕前に3名の新戦力が買い入れられていた。合わせて推定1億3000万ポンド(約184億円)近い移籍金は決して小規模ではない。しかしながら、戦力アップではなく補填にすぎない事実は否めない。レアル・マドリーからクラブ史上最高の移籍金6000万ポンド(約85億円)で獲得したアルバロ・モラタは、昨夏にコンテが獲得を切望していたFWでもあるが、それはジエゴ・コスタとの2トップが念頭にあった就任当初のこと。3−4−2−1システムが功を奏し、反りが合わなかった1トップのコスタを構想外として迎えた今夏は、エバートンで昨季リーグ戦25得点のロメル・ルカクが第1希望だった。

 6月に選手サイドが携帯メールでの戦力外通告を騒ぎ立てたコスタの扱いは、監督もクラブ広報も「1月の時点で決まっていた」としている。であれば、なおさらフロントは最優先ターゲットの獲得に励むべきだった。ルカクは、獲得競争で先手を取ったマンチェスター・ユナイテッドの新センターFWとして、開幕戦で2得点デビューを飾っている。

 モナコから中盤中央に加わったティエムエ・バカヨコは、23歳という将来性も加味すれば、マンUへと去ったネマニャ・マティッチからのグレードアップと解釈できなくもない。だがバカヨコは膝のけがから回復途中での移籍。にもかかわらず、国内ライバルへのマティッチ放出を移籍市場閉幕間際まで遅らせることなく、プレシーズン中に即戦力を与えたクラブの判断にはコンテならずとも首を傾げたくなる。開幕前の会見で「なぜ?」と訊かれた指揮官は、「クラブに聞いた方がよい」と反応していた。

 タイミングを前後して、チームの中盤からは昨季1軍の控え要員も放出されていた。ナサニエル・チャロバーがワトフォードに売られ、本職ではないがボランチとしても使えるルベン・ロフタス=チークとクル・ズマも、それぞれクリスタル・パレスとストークに期限付き移籍で放出されている。「移籍市場で買えるのなら戦力を買って補強を図るのが妥当だ」と言っているコンテは、若手の放出に反対はしなかったのかもしれない。しかし「クラブが送り出すと決めたのだから、その若手は修業先で成長する必要があるということだ」という発言は、やはり「フロントに聞いてくれ」とでも言いたげだった。

既に今季解任第1号の有力候補に

補強が遅々として進まないまま、悪夢の黒星スタートを切ったチームは巻き返すことができるのか…… 【写真:ロイター/アフロ】

 モラタとバカヨコに先立ってローマから購入されたアントニオ・リュディガーは、昨季から代役不足のウイングバックとしても使える。だが、長年のキャプテンでもあったジョン・テリーという重鎮が抜けた最終ラインの新顔としては、やはり第1希望ではなかったと見られている。デビューを果たしたバーンリー戦を前に、「御目に適う新戦力ですか?」との問いに「ああ」と答えた指揮官はレポーターの顔を見てさえいなかった。

 もちろん、移籍市場は8月末まで開いている。トッテナムとの次節では出場停止でセスクも失うセンターハーフには、エンゴロ・カンテと古巣でコンビを組んだ実績のあるダニー・ドリンクウォーター(レスター)や、マルチロールなセルジ・ロベルト(バルセロナ)、ケイヒルが3試合出場停止となったCBにはビルヒル・ファン・ダイク(サウサンプトン)、ウイングバックにはアレックス・サンドロ(ユベントス)らの名前が獲得候補のうわさとして挙がってもいる。

 コンテはフロントにこそ「120%」の獲得努力を求めたい心境だろう。さもなければ、補強不足で辞任さえ考えていたとされるクラブに解雇されるという屈辱まで味わうはめになりかねない。補強が遅々として進まないまま、悪夢の黒星スタートを切ったチームが精彩を欠き続けるようなことになれば、既に今季解任第1号の有力候補と目されているコンテのプレッシャーは高まる一方。しかもチェルシーには、監督としては格上のジョゼ・モウリーニョとカルロ・アンチェロッティでさえ、フロントによる補強失敗のツケを自身の解任で支払わされた前例まで存在する。

 あたかも、開幕戦のベンチ前で前屈みになって冷笑していた現監督は、チェルシーを牛耳るロシア人富豪が振る大鉈が自分の首に落ちるのを覚悟していたかのように……。

※移籍金は推定で、日本円は17年8月17日現在のレートで換算

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著者プロフィール

1966年生まれ。青山学院大学卒。西ロンドン在住。94年に日本を離れ、フットボールが日常にある英国での永住を決意。駐在員から、通訳・翻訳家を経て、フリーランス・ライターに。「サッカーの母国」におけるピッチ内外での関心事を、ある時は自分の言葉でつづり、ある時は訳文として伝える。著書に『証―川口能活』(文藝春秋)、『勝ち続ける男モウリーニョ』(カンゼン)、訳書に『フットボールのない週末なんて』、『ルイス・スアレス自伝 理由』(ソル・メディア)。「心のクラブ」はチェルシー。

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