岩政大樹が考える、データの活用法と未来 「判断する指導者の力量が試される」
データをどのように捉え、扱うべきなのか。元日本代表の岩政(右)と、データ活用の普及を続ける斎藤の対談が実現した 【スポーツナビ】
斎藤は、レスター・シティやレアル・マドリーなど各国で導入されているウェアラブル端末を国内のクラブや大学、高校に導入するサポートをしている。カタパルト社のソリューションは背中に付けるGPSデバイスが特徴で、走行距離やスピード、加減速の回数など、選手個別のデータが計測できる。これにより、選手たちは自身のトレーニング量や強度の“評価基準”を持ち、過去の実績やチーム平均と比較することで、けがのリスクを削減したり、試合でパフォーマンスを100パーセント発揮できる体作りを行えるのだ。
国内でデータ活用の普及を続ける斎藤は「数字を通してコミュニケーションを図ってほしい」と語り、岩政は自身の経験から「指導者はデータを持っていてもいいけれど、選手に与えるべきかは判断が必要」と、データを用いる際に注意すべきポイントを挙げる。立場の異なる2人のディスカッションからは、データ活用の進むべき未来が見えてくる。(取材日:2017年7月19日、文中敬称略)
データ活用は指導者の力量が試される
東京ユナイテッドFCで選手兼コーチを務める岩政は、選手へのデータの伝え方で指導者の力量が試されると語る 【写真:YUTAKA/アフロスポーツ】
岩政 数字をあまり気にしたことはないですね。選手がプレーするときに、データが入ってくると数字に体が引っ張られることがあると思うんです。たとえば、自分は「今日はあまり走っていないな」と思っていたのに、指導者から「今日はスプリントをけっこうやっているな」と言われたら、急に「疲れたな」と感じる。走行距離を毎回出すと、距離を稼ごうとしてサッカーをしてしまう(笑)。
選手からすれば、数字が出てくると、絶対にそれを頭に入れてサッカーをします。今までなかったものが出始めたがために、気になるというのは自然な流れです。だから数字を出すかどうか、どこを選手に与えるか。指導者の力量が試されると思いますね。
斎藤 選手にはしっかりと教育が必要ですよね。高校生やプロの方々にデータを見せると、やはり走行距離を気にします(笑)。「おれが一番走った」などと競い合うんですけれど、そこがすべてではない。私が導入された方に一番お伝えしているのは「数字を通して、選手とコミュニケーションを図ってください」ということなんです。
岩政 今は一番難しい時期だと思います。データというものが入ってきて最初に勉強してしまうと、そこばかりになってしまう。「おまえはデータ的に……」というような言い方をしてしまうと、絶対に間違えます。頭に入れておきながらも、選手にはどのタイミングで、どの情報を与えれば納得してくれるのかを考える。データを伝えず、指導者が勝手にそこをケアする練習メニューを組んでしまった方がいいこともあります。
感覚を大事にする選手は多いんです。データがあることは悪いことではないのですが、その上でどうするのかという判断の問題だと思います。判断がなく、「データがこうだから」と言われると選手は反発したくなりますよ。
データを選手に与えるべきではない理由
岩政 選手によると思いますが、僕は上がらないですね。僕が指導者だったらデータは容易に出しません。練習をやりたいというならやらせて、自分でインテンシティーが上がらないように調整させます。ピッチに出るかどうかは選手の判断、出た選手がやれているかどうかは監督の判断です。ただ、全ては個別の対応が大切だと思います。データが説得力をもつ相手にはデータを示せばいいし、選手はひとまとめにされることを何より嫌いますからね。
斎藤 カタパルトのソリューションを使うと、ある選手がけがをするとき、2日前の練習でハイスピードでランニングする割合が15%を超えていた、みたいな傾向が分かります。
岩政 傾向を指導者が知るのはいいことだと思います。けれど、指導者がそれを選手に言う必要はない。それがインプットされて、「2日前にけっこう走ったから、今日はけがをする可能性が高いぞ」と思ったがために、実際のけがにつながるんです。だから指導者はそれを知っていて、激しいトレーニングをやった2日後には少し落としたトレーニングをやればいいだけです。
おそらくデータマンみたいな役職になると、その人はデータを言いたくなる。データを使ったトレーニング量の調整はいいと思うんです。ただ、接するときに選手としてはもうちょっと熱を持って接してほしいんです。データを持ち出されると、ちょっと冷たく感じてしまうというか。データを使うとしたら、そこは気を付けたいなと思いますね。特に僕みたいなプライドの高い選手はね(笑)。でもプロはそういう選手が多いから。
規制をかけることで、選手の可能性を狭めてしまう
岩政は規制をかけることで、選手の可能性を狭めてしまうことを懸念した 【(C)J.LEAGUE】
斎藤 それは意図的に手を抜いていることになりますよね。監督から走っていないとか、プレーについて注意されることはないのでしょうか?
岩政 スプリントをしないで守っているだけです。その分、頭を使っていて、やられるわけではないですから。疲労が溜まっているなら「溜まった状態なりのプレー」をしています。少し自分の体が重いなと思ったら自分のプレーで変えられるんですよ。
たとえばデータを見て練習量をコントロールしてしまうと、体が重い状態の練習をやらなくなってしまう。連戦中はそういう状態もありますが、そのときに対処する方法論を持っていないことになる。すると、調子が良いときはいいけれど、調子が悪いとパフォーマンスが一気に落ちる選手になってしまいます。けががあったとしても対処する方法論はあるので、それでもパフォーマンスが落ちない状態を作ることが重要だと思います。
鹿島(アントラーズ)時代の先輩に小笠原(満男)さんや、いま監督をしている大岩(剛)さんがいます。彼らはけがをしているそぶりも見せずにやりますよ。大丈夫かと聞いても「大丈夫」しか言わない。ダメなら自分で判断すればいいし、そういう選手でなくてはけがに強くなりません。こちらが規制をかけてしまうことで、選手の可能性を狭めてしまうことがあると思います。
こういう話をすると、「けがをしていても練習はやらせた方がいい派だな」と言われます。そういうわけではないんですけれど(笑)、僕はやるかやらないかの責任は選手にあり、その選手を使うか使わないかは監督の責任であると思っているだけです。