初開催となったU15チャンピオンシップ Bリーグが模索する日本バスケの底上げ策

大島和人

有力選手は大会回避も

決勝に残った2チームもベストメンバーとはいえない状況だった 【(C)B.LEAGUE】

 横浜には田中力という「日本の宝」と言い得る逸材がいる。今年3月のジュニアオールスターでは、圧倒的な得点力を見せて神奈川を優勝に導き、大会MVPにも輝いた。

 その田中は横須賀市立坂本中のメンバーとして神奈川県大会を制しており、関東大会と全中を控えている。白澤HCが「勝ち残っているし、けがで来られなかった」と説明するように、彼はU−15チャンピオンシップの出場を回避した。横浜は田中も含めて主力4名を欠いて、晴れ舞台に臨んでいた。

 3位に入った栃木は関東大会に出場する選手はいなかった。ただアカデミーの運営を担当する山田将樹マネージャーは「けがが怖いし(部活の)練習もできないので、もし関東大会に出たら『そちらを優先していきなさい』というようにしていた」と明かす。

 優勝したFE名古屋の登録は横浜や栃木以上に複雑で、選手たちは3チームに絡んでいた。そもそもBリーグのユースチームよりも先に街クラブがあり、「バスケ塾」のような存在として活動をしていた。今大会のベスト5に輝いた中川と深津も、部活を終えた後に東海市ジュニアバスケットボールクラブで週3回の練習を積んでいる。愛知はクラブチームの活動が盛んで、ジュニア連盟という組織もある。

 青木HCはこう説明する。「ジュニア連盟のチームからレンタルという形で、大会期間中は(選手を)お借りしている」

 FE名古屋が今大会に連れてきたのは、各市や各地区の大会ですでに敗退し、部活的には最後の夏を終えた選手たちだった。

求められる先を見据えた枠組みの整備

 選手が2つ、3つのチームを掛け持ちするのはおそらく効率的でない。栃木は週5回の活動を行っていることもあり、山田マネージャーは「二重生活で疲労、けが、勉強時間(の確保)が課題になっている」と口にしていた。今後は部活と同等以上の体制を用意できるクラブが先陣を切って、一本化の動きが強まるだろう。実際にU15千葉ジェッツは他に先駆けて、2018年入学の新中1から「部活動との掛け持ち禁止」を打ち出している。

 ただし大切なことは中学とクラブ、Bリーグのアカデミーと街クラブの縄張り争いではなく、選手たちをどう育てるか。勉強や休養とのバランスも含めて、先を見据えた枠組みを作る必要がある。U15チャンピオンシップのキャッチコピーは「世界への第一歩がここから始まる」だった。中学生年代の大会はBリーグや日本代表に向けた飛躍の場であって、まだゴールではない。

 Bリーグは2018−19シーズンから「U−15チームの設置」をライセンス付与の条件としている。19年からは国民体育大会少年の部のU−16化も決まっており、低い年代でもチャレンジの場がさらに整備される。また16−17シーズンから高校生、大学生がBリーグでプレーできる特別指定選手の制度も導入された。

 栃木は昨年、県内の鬼怒中と佐野クラブジュニアでプレーしていたU−16日本代表の星川堅信(現洛南高1年)に特別指定選手のオファーを出している。また水野幹太(現法政大1年)は福島南高に在学しながら、B2福島ファイヤーボンズで大活躍を見せた。BリーグのU−18チームがサッカーのように整備されれば、このような「飛び級」はよりスムーズに進むだろう。

日本の強化が進む最良の方法とは

今後「BリーグU15チャンピオンシップ」は、Bリーグや日本代表に向けた飛躍の場となっていくのか 【(C)B.LEAGUE】

 しかし、BリーグはU−18に先んじて、U−15から育成組織を整備するという選択をした。U−18の整備は数年後に向けた次の課題となる。大河正明チェアマンはこう説明する。「せっかくミニバスで経験を積んでも、中学ではバスケットをほとんど経験したことのない先生が監督をしていたり、バスケ部がないということがある。さらに中学3年生の大会は夏で終わってしまうので、常にバスケットをやっていける環境を整えたい。まずU−15を持ってもらって、当面は二重登録も認める」

 この「二重登録」は現時点だとBクラブのユースに限定した話だが、いずれ街クラブの扱いもはっきりさせる必要がある。例えば「1つの大会を2つのチームで戦う」状態が許されないのは大原則だろう。また仮に複数チームへの重複登録を認めたとしても、競技者番号などを協会が把握し、管理を密にすることは前提だ。

 Bリーグ強化育成部の塚本氏はこう述べる。「中体連(中学校体育連盟=学校の部活)を敵にするということは全くない。バチンと切るのは軋轢(あつれき)を生むことにつながる。いわゆる二重登録の状態を挟んで、移行期間で動かしていきながら、その中でもJBAとともに日本の強化が進む方向はどこなんだというのを見定めてやっていく。大会が重ならないのであれば、(クラブ、中体連の両方で)チャンスを与えていいのかなという考えもある」

 Bリーグのアカデミーの狙いについて彼はこう説明する。「あくまでも世界、プロを目指して上がっていくんだよというところを強調していく。中学校から選手を取るということはなくて、私たちの売りはここなんだということをメーンにする」

 現状としてBクラブがアカデミーに割ける予算はサッカーと比較にならないほど小さい。とはいえBリーグが日本に定着し、経営規模も大きくなれば、育成に投資するという発想も強まるはず。今から未来に向けたビジョンを持ち、先んじて制度を整備する必要がある。

 ただ、Bクラブと街クラブ、街クラブと部活の住み分けが整うまでに移行期間は必要で、多少の摩擦も起こるだろう。Bリーグや各クラブが「上から目線」で自分の都合を押し付けることは禁物。地域の学校やクラブから不信感を持たれてしまうと、最終的にはBリーグや日本バスケ全体の不利益につながる。例えば強引な引き抜きは避け、共存共栄の道をとるべきだ。

 幸いにして、バスケ界にはBリーグとJBAが一体となって改革を進めようという機運がある。代表強化というひとつの目標に向けて、ベクトルを合わせようという発想もある。そんな大きな流れに部活、街クラブも自然と加わっていく――。それこそがBリーグのアカデミーと日本バスケが目指すべき方向だ。

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著者プロフィール

1976年に神奈川県で出生し、育ちは埼玉。現在は東京都北区に在住する。早稲田大在学中にテレビ局のリサーチャーとしてスポーツ報道の現場に足を踏み入れ、世界中のスポーツと接する機会を得た。卒業後は損害保険会社、調査会社などの勤務を経て、2010年からライター活動を開始。取材対象はバスケットボールやサッカー、野球、ラグビー、ハンドボールと幅広い。2021年1月『B.LEAGUE誕生 日本スポーツビジネス秘史』を上梓。

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