確かな歩みを刻んだ田中刑事の3年間 課題は「4回転と表現、そして自信」

長谷川仁美

GPシリーズで初の表彰台

16年のNHK杯では、同級生の羽生(中央)とともに表彰台に。「いつか自分の成績で国歌を聞きたい」と思いを明かす 【坂本清】

 シニア3年目となる16−17シーズンについては、「五輪シーズンに入る前の大事な1年で、たぶん一番難しいシーズンになると思います。4回転も2種類(サルコウとトウループ)やろうと思っています」と覚悟を決めていた。

 このシーズン、初めてGPシリーズ2戦に出場を果たした。ロシア杯では7位だったが、NHK杯では、ショートで1つ、フリーで2つの4回転サルコウに挑戦。フリーの2つ目の4回転+2回転を降りると、会場が沸いた。次第に盛り上がっていく『フェリーニ・メドレー』で田中は、ジャッジに視線を向けながら、体を大きく使って動き回り、次々とジャンプを決める。演技終了時には「よし!」とガッツポーズも見せた。

「今季は4回転トウループも入れたかったんですけど、間に合わなくて、サルコウ2本という決断に至りました。でも今回結果を出せて、その決断は間違っていなかったんだと思いました」

 さらに、演技構成点の5コンポーネンツのうち、4項目が8点台と、これまでにない高評価を受けた。3位となり、同級生の羽生結弦(ANA)と4回転時代の中心にいるネイサン・チェン(米国)と一緒に表彰台に立つ田中の表情は、すがすがしかった。

「表彰台に立ってみたら、風景がすごかった(笑)。日本で表彰台に立てて、すごくうれしかったです。国歌を聞けたのが……今回はユヅ(羽生結弦)に向けられたものでしたけど(笑)、いつか自分の成績で聞きたいなと思いました」

 そして、年末の全日本選手権では2位となり、再び表彰台にのぼった。

初めて迎える五輪を懸けたシーズン

初めての世界選手権は厳しい結果に終わった。この大舞台の経験を五輪シーズンに生かせるか 【坂本清】

 今年2月初めのユニバーシアードでは、ショートとフリーの1つ目の4回転サルコウを決め、初出場となった世界選手権のフリーでは、ついに4回転を2つとも成功させた。だが後半のトリプルアクセルでの転倒と、コンビネーションジャンプを1つ付けられなかったことなどから、得点は伸び悩んだ(編注:総合得点222.34点の19位)。

「(2016−17シーズンは)出ると目標にしていた試合はマックスに出られたけれど、出た試合で100パーセントの演技というのは達成できませんでした」

 NHK杯、全日本選手権、ユニバーシアードと、シーズン前半から中盤にかけての勢いを、後半戦につなげられなかった。調整はできていたが、試合本番に力を出し切れなかった。悔しかった。「普段の練習から、試合で生かせるような自信をもっとつけていきたい」。そう、痛感した。

 そして、五輪出場が手に届くところにある、初めての五輪シーズンがやってきた。

「4回転は1種類では足りない時代になっているので、(2種類目の)4回転(を成功させる)という課題があります」と、ジュニア時代に試合で成功させているトウループを、今季こそ入れたいと考えている。

 初めての大舞台だった世界選手権で、得たものは大きかった。ベテラン選手たちの演技を目の当たりにし、「プログラムや表現などすべてにおいて、足りない部分や追いつきたい部分がある」と痛感した。

 2種類の4回転とベテランのような滑りや表現、そして自信……。課題は見えている。平昌五輪の代表「3」枠争いは厳しいものだが、五輪選考の懸かった重要なシーズンに、これまで着実に実績を残してきた田中がどんな戦いを披露するのか。しっかりと見つめたい。

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著者プロフィール

静岡市生まれ。大学卒業後、NHKディレクター、編集プロダクションのコピーライターを経て、ライターに。2002年からフィギュアスケートの取材を始める。フィギュアスケート観戦は、伊藤みどりさんのフリーの演技に感激した1992年アルベールビル五輪から。男女シングルだけでなくペアやアイスダンスも国内外選手問わず広く取材。国内の小さな大会観戦もかなり好き。自分でもスケートを、と何度かトライしては挫折を繰り返している。『フィギュアスケートLife』などに寄稿。

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