都市対抗・開幕試合は劇的サヨナラ決着 V2狙うトヨタ自動車が見せた厚い選手層

楊順行

昨年橋戸賞のエース佐竹が先発せず

今夏の都市対抗開幕戦に2連覇を狙うトヨタ自動車が登場。九州三菱自動車の本格派右腕・谷川の前に苦しんだものの、延長12回に源田(西武)の穴を埋める藤岡(写真の背番号0)の満塁本塁打でサヨナラ勝ちを収めた 【写真は共同】

 やはり、役者が違った。

 第88回都市対抗野球の開幕戦。前年覇者のトヨタ自動車(愛知県豊田市)と九州三菱自動車(福岡県福岡市)の一戦は、緊迫の投手戦になった。延長11回を終わっても、1対1。2003年に導入されて以来、開幕試合としては初めてのタイブレークにもつれた。実力としてはトヨタが一枚上と見られながら、1死満塁から任意の打者で攻撃を始めるタイブレークでは、なにが起こるかわからない。

 トヨタの先発は、昨年はケガで出番のなかった川尻一旗(玉野光南高)。大方の予想は、佐竹功年(早稲田大)だった。なにしろ、優勝した昨年の橋戸賞(MVPに相当)エースのだ。だが、その佐竹は「周りから(トヨタは)僕しかいないと言われるが、そんなことはない。抑えてくれると信頼していました」と言う。

 川尻が、信頼に応えた。140キロ中盤のストレートを軸に9回途中まで5安打で、2回に八坂健司(福岡大)に被弾した1失点だけだ。ただ、九州三菱自動車も先発の谷川昌希(東京農業大)がいい。真っすぐは外いっぱいに決まり、カットボールも冴えて、こちらも西潟栄樹(桐蔭横浜大)に浴びた一発だけで連打を許さない。かくして試合は「谷川投手は、そう簡単に打てないと聞いていた」とトヨタ・桑原大輔監督が想定していた接戦となる。

1死満塁で2三振と最高の結果

 そして、延長――。

 10回表、トヨタの4番手ピッチャーとして佐竹の名前がコールされると、満員にふくれあがった一塁側応援席から大きな拍手がわいた。昨年は、5試合中4試合に登板して2完封、30回を投げて自責点1、防御率0.30の都市対抗男だから、真打ち登場といっていい。10、11回を1四球のみ、当然のように無失点で迎えた12回はタイブレークだ。

 1死満塁、ボテボテの内野ゴロでも外野フライでも、三走は生還する。守備側が望む最高の結果は三振という局面だ。そして、そのとおりになるのだからしびれる。必死に粘る隈本高晟(東京農業大)には、ギアを上げた真っすぐで押し、最後は空振り三振。矢野丈裕(福岡工業大)には一転、フォークを勝負球にやはり空振り三振。1失点に収めれば御の字といえるタイブレークで、失点どころか矢野にはバットにかすらせもしない圧巻ぶりだ。佐竹は言う。

「三振は狙って取れるものじゃありませんが、ヒットにならないところを狙うことはできる」

 キレのあるストレート、多彩な変化球もそうだが、この投球術こそ佐竹の真骨頂だ。そういえば、昨年の七十七銀行戦。ボールが先行し、相手にとってはヒットエンドランを仕掛ける好機に、あえて高く外して空振りを誘い、捕手が盗塁を刺した場面があった。そういう感性が、防御率0.30の土台にある。

源田の穴を埋める男のサヨナラ弾

 そしてトヨタはその裏、先頭の藤岡裕大(亜細亜大)が、3ボール1ストライクからの高め直球を振り抜くと、打球はトヨタカラーで赤く染まった右翼席へ。谷川の156球目は、「見送ればボール。1、2、3で振った」という、劇的なサヨナラ満塁本塁打となった。この藤岡、鳴り物入りで入社した昨年は、源田壮亮(埼玉西武)がいたこともあり、本来の内野ではなく外野転向を申し出た。層の厚いチームで、まずは試合に出ることを優先したためだ。すると都市対抗では、外野手として21打数8安打と若獅子賞(新人賞)を獲得。そして今季は、「ショート一本に挑戦します」と宣言し、見事に源田の穴を埋めている。

 もう1人、トヨタの打の立役者は西潟だ。4回まで無安打7三振と、谷川の熱投に打線が沈黙していた5回、121キロのスライダーにうまくタイミングを合わせると、打球は右翼席最前列へ。チーム初安打は、貴重な同点弾となった。打球がフィールドにはね返ったため、気づかずに三塁まで全力疾走していた西潟は、「ホームランは都市対抗2本目ですが、新人だった15年のJR北海道戦もランニング・ホームラン。今度は、ゆっくりベースを回りたいです(笑)」。

 この西潟、2年目の昨年も初戦からスタメン出場していたが一、二戦と音なしで、以後は出場機会なし。チームの優勝にも「正直、悔しい」と、このオフにはイヤというほどバットを振ってきた。それが報われた格好だ。この試合のトヨタは3番の河原右京(早稲田大)、昨年首位打者賞を獲得した多木裕史(法政大)にも途中で代打を起用するなど、「選手層がやはり厚いと感じた。出てきた4人の投手も、すべて良かった」(九州三菱自動車・比嘉康哲監督)。

 かくして、苦しみながらも開幕戦をモノにしたトヨタ自動車。「この一戦は、大きい」とは桑原監督で、史上7回目の連覇に向け、まずは好スタートを切った。

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著者プロフィール

1960年、新潟県生まれ。82年、ベースボール・マガジン社に入社し、野球、相撲、バドミントン専門誌の編集に携わる。87年からフリーとして野球、サッカー、バレーボール、バドミントンなどの原稿を執筆。高校野球の春夏の甲子園取材は、2019年夏で57回を数える。

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