低酸素でヘモグロビンの働きを鍛えよう 速く走りたい人のための『猫トレ』講座(4)
【写真提供:ワハハ本舗】
ハイテクスポーツ塾にある「低酸素ルーム」では、標高2000m以上の高地トレーニングの状態を作ることができる 【スポーツナビDo】
東京・神保町にあるランニング専門ジム「ハイテクスポーツ塾」の主宰者である中島進コーチによると、マラソンにおいて重要なのは、赤血球の中にあるヘモグロビンの働きをどれだけ落とさないかということ。その働きを持続させるのに効果的なのが、「高地トレーニング」となります。今回はその理由を説明してもらいました。
長距離には「動脈血酸素飽和度」が重要
心肺機能に関しては、昔は「最大酸素摂取量(VO2max)」が指標とされていましたがマラソン選手に関しては、現在は「SpO2=動脈血酸素飽和度」が重要視されています。長距離走というのはやはり有酸素運動ですから、酸素を肺に取り込んで、その酸素を血液に乗せて体中の筋肉細胞に運べるかが重要となってきます。
血液の中では、赤血球の中にあるヘモグロビンが酸素を運ぶ役割を担っていますが、通常は各個人のヘモグロビンがほぼ100%に近い状態で酸素を体の隅々に運ぶ働きをしています。それが疲労困ぱい状態におちいると、ヘモグロビンの一部が酸素を運ばない状態になってしまいます。するとパフォーマンスが下がってしまうのです。そのためマラソンには、ヘモグロビンが酸素を運ぶ能力を落とさないトレーニング、SpO2を落とさないトレーニングが必要となります。
――では、そのヘモグロビンが酸素を運ぶ能力、ひいては心肺機能を高めるにはどんなトレーニングをするとよいのでしょうか?
高地トレーニングを行うとヘモグロビンの数を増やす効果があることは知られていますが、そのためには一般的に3週間以上の長期滞在が必要になります。われわれも昔は高地へ行って、最低でも1カ月は滞在しました。ただ、高地へ行って長期のトレーニングすると、体調不良になるケースも多いです。トレーニングをするにあたっては休養と回復も重要となりますが、ずっと高地にいるとこの休む能力や回復させる機能が落ちてきます。
そこで小林(寛道)先生は「トレーニング・ハイ、リビング・ロウ」といって、トレーニングは高地の空気の薄い場所で行い、休養は逆に酸素の濃い低い場所で取るのが理想だと言われていました。
低酸素ルームはそういった意味で最適なトレーニングになります。低酸素ルームの中にトレッドミルを置き、標高2000m以上の状態で走ります。最近の研究では、短期だとヘモグロビンの数は増えないのですが、SpO2が疲労時に落ちなくなることは証明されています。ですので、低酸素の環境でトレーニングを積み、酸素の濃い外へ出られることで、「リビング・ロウ」を実現しているのです。
心肺機能は2週間は落ちない! レース前はしっかり休養を
パルスオキシメーターでヘモグロビン測定も簡単にできるようになった 【スポーツナビDo】
疲労の状態を作ることが必要ですね。マラソンでいうと、今は30キロ走が良いと言われていますが、私は賛成できない面があります。レースではそこからガクンと来る訳ですから、せっかくそういう疲労の溜まった状態を作ったのなら、それを利用しない手はありません。そこからが本当の練習だと思います。
みんな大事な試合の前に高地トレーニングを2〜3カ月行い、10日から2週間ぐらい前に平地へ降りてきます。それは2週間ぐらいは高地で作った心肺機能が持つからそうしています。個人差はありますが最大2週間は大丈夫です。試合に向けてトレーニングをしていると、直前に風邪を引くなどのアクシデントもあるかと思いますが、そこでゆっくり休んだら、かえってよい休養になって記録が出たりすることもあります。
――では疲れが溜まってくると体調を崩すことも実際に多いと思いますが、そうやってよい休養になるととらえることもできるのですね。
「2週間前の体力で大会に出るんだよ」と、私はよく言います。そこから残り2週間で上げようとしたら失敗するほうが多いです。試合前の2週間は、作り上げた体力をどう維持しようかという視点で過ごしたほうがいいですね。今までに作った力を100%出せるよう、休養であったり精神的なものを持続する。これが最後の10日から2週間です。練習量を徐々に落とし、直前では3割ぐらいまで落とすといいかもしれません。
(次回は、スピード感覚を身につけるための具体的なトレーニングです)
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