日本と欧州では“スタンダード”が違う 川島永嗣が語るGKの複雑さ<前編>
“スタンダード”を上げていかないと
川島は技術は大切だとしながらも、“スタンダード”を上げていかなければならないと語る 【赤坂直人/スポーツナビ】
当時はそこまで感じていなかったけれど、今感じるのは技術の“スタンダード”の差。たとえば向こうだと「弾くな」と言われるボールでも、日本だと「OK」になることがある。本当は強いシュートでもしっかりとキャッチしなければいけない。それをトレーニングでやるのが(欧州の)“スタンダード”だし、日本だと逆に技術を意識しすぎることでミスを恐れてしまう。結果的に保守的なキャッチの仕方になっている部分はあると思う。
――「形」にすごくこだわるからね。キャッチする際の手の形とか。そのあとボールを落とさないようにとか。でも落とさないように練習するボールが緩かったりする。
海外でやっていると、大が小を兼ねるんだよね。自分がどれだけ形を作っていても、力負けしたら終わり。力のあるシュートが来たときに、しっかりと力で抑えられる体の使い方ができていないと、手の形がどうかなんて意味がなくなってしまう。
海外の選手は体がでかいし、骨格もしっかりしているから、(強いボールでも)バシっとキャッチして終わってしまう。日本だったら強いボールには手の形を意識してってやっているけれど、向こうの選手は「バシ」で終わりだから(笑)。
だから(GKの育成は)もっと大きな枠で考えた方がいいと思う。技術はすごく大切だし、そこができていなかったら先には進めないんだけれど、レベルというか“スタンダード”を上げていかないといけない。もっと強いボールが来たときにどう対応するのかというのを突き詰めていかないと。
緩いボールを10回いい形でキャッチできるようになることが正解なのか。強いボールを1〜2回ミスしてもキャッチするようにトライすることが正解なのか。その差はあるのかな。イングランド(レスター)に練習で行ったとき、練習から飛んでくるシュート(の威力)が半端ないし、GKコーチが蹴るボールはベルギーでやっていたときよりもすごかったからね。そういう“スタンダード”の差があると思う。
最後は自分が判断しないといけない
クラブや監督の求めるスタイルによって、GKに求められる役割は異なる 【写真:アフロ】
クラブや監督の求めるスタイルによって違うから、欧州でひとくくりにするのは難しい。ただ、欧州のサッカーはけっこう現実的だから、GKに足元(の技術)は求めるけれど、クラブによってはそれでリスクを背負うくらいだったらシュートを止める能力が高いGKの方がいいというクラブが多い。特に中位から下位にかけてのクラブはそうだと思う。確実なプレーをするGKの方が重宝される。
――なるほど。クラブのサッカースタイルを理解することが必要だね。GKは少し特殊なポジションだから、あまりチーム戦術にはコミットできていない部分があると思う。そこはチーム戦術に合わせて理解しないといけないということだよね。
監督がどれくらいまでのリスク(を冒すプレー)をGKに求めているのか。まったくいらない、GKはとにかくミスするなというタイプなのか、多少のリスクがあってでもつなぎたがるのか。または絶対的につなぎたい監督なのか。それは自分が理解してやらないと。何がなんでも蹴っている選手がいいわけでもないし、何がなんでもつなぐ選手がいい選手なのかは分からない。それは監督が決めること。結局は点を決められて言われる(批判される)のは自分だから。
――確かに。GKはそこがある。
最後は自分が判断しないといけない。たとえばスコットランド(ダンディー・ユナイテッド)にいたときも監督はけっこうつなぎたがっていたんだけれど、チームの感じとしてはそこでつないだら絶対にやられる感じがあった。
いくら監督が「つなげ」と言っているからといって、自分がミスして危ないシーンを作ったらそれは結果的に勝敗につながるし、最後は自分で判断しないといけない。だから一概には言えないかな。でも(足元の技術は)できたらできただけいいと思う(笑)。
<後編に続く>