「覚悟」が人を変える、28歳杉田の優勝 きっかけの場所ウィンブルドンへ――
試合選びに表れた変化
ゲリー・ウェバーOP シングルス1回戦でフェデラー(左)に敗れ、試合後握手を交わす杉田祐一=ハレ 【共同】
「去年の芝の後に、ほとんど全部、ツアー大会に行くようにしました」
チャレンジャーに出てポイントを手堅く取りにいくのではなく、予選からでもツアー大会に挑戦し、あえてレベルの高い戦場に身をおいた。それは必ずしも、そこで勝てるとの自信や確証があったゆえの選択ではない。
「ダメだったらランキングも落ちるだけ。それでも、そうなったら仕方ないと思って戦ったシーズン。チャレンジでした」
自らを「ATPツアーの一員」と定義することで退路を断ち、挑んだ賭けに、彼は勝つ。戦いながら経験を積み、上位との距離をつめ、8月のシンシナティ・マスターズ(ウエスタン&サザン・オープン)ではトップ100選手相手に、4つの勝ち星を連ねたのだ。
「あそこで、連戦しながらポイントも獲得できたのが大きかった」。
あの日の自分の正しさを見つめるように、杉田は遠くに視線を向けた。
ウィリスの姿に熱い物を覚え歩み出したその道が、今年6月、ゲリー・ウェバー・オープンのセンターコートへと至ったのは、ある種の必然だったかもしれない。この大会での杉田は予選決勝で敗れるも、本戦選手に欠場者が出たため“ラッキールーザー(幸運なる敗者)”として繰り上がる。その先で彼を待ち構えていたのは、「プロになった頃からの憧れ」である、ロジャー・フェデラー。「平常心で挑むのは難しいだろう」と予感し挑んだ一戦には3−6、1−6で敗れるも、その経験は「充実した試合」として心身に刻まれる。そして彼は、また自らに、誓いを立てた。
「ここを新たな出発点にできるかが、勝負になる」……と。
始まった、次のステージ
ツアー制覇を成し遂げ、優勝カップを掲げる杉田祐一=アンタルヤ 【共同】
勝利の瞬間、スローモーションのように背中からゆっくり芝の上に倒れる彼を満たした想いは、「やっと終わった……」だったという。その後ベンチに引き上げ、表彰式の準備が進むコートに目を向けるうちに、沸々と感激がこみ上げた。
「ほんとうに、うれしいですね」
その時に時間が巻き戻ったかのように、杉田は満面の笑みを浮かべると、感激の言葉を吐息とともに口にした。
それでも至った目的地は、その瞬間に、次なる高みへの出発地となる。
「ここから、非常に難しい戦いが始まるとは思っている。でもいろんな経験をしているからこそ、それを乗り越えられる自分でありたい。ここまで来た経緯を考えれば、まだまだ、絶対に上に行けると思っているし……」
踏破した道に想いを馳せ、杉田はしばし言葉を区切ると、視線を上げて宣言した。
「本当の勝負のシーズンが、ここから始まると思います」