少頭数の宝塚記念に見て取れる不安の萌芽 改めて春古馬GI3戦を考える

春3冠の課題点は

 中距離路線の充実という点では、一見歓迎すべき昇格ではありますが、昇格案が出た当初から懸念された課題がまったくなかったわけではありません。

“春3冠”を謳うシリーズの、まず開催時期。4月に大阪杯、天皇賞(春)が行われ、約2カ月近い間隔が開いて、宝塚記念は梅雨入り後の6月末です。このスケジュールが適当なのかどうか。

 そして何より、はたして2000m→3200m→2200mのシリーズが成立するのかどうか。つまりすべてのレースに出走する馬がどれだけいるのか、という点。“中距離”のカテゴリーから明らかに外れている天皇賞(春)が、どういう扱いになるのか。

 そうでなくとも長距離血統が隅に追いやられているステイヤー受難の時代。シリーズに組み込まれれば存在意義が復活する効果は見込めますが、ごく直近に2000mのGIがあるなら、逆に棲み分けが鮮明になり、天皇賞(春)の空洞化が進んでしまう可能性がないのか、ということです。

 今年の場合は、いまや“国民的アイドルホース”は言い過ぎかもしれませんが、しかし国民的演歌歌手の北島三郎氏が所有し、名実ともにJRAの顔とも言うべき武豊騎手がタッグを組むキタサンブラックの存在があまりに大きく、課題点が表面化することはひとまず避けられましたが、では来年以降はどうなるのか。その懸念……いや不安を拭うことができません。

 宝塚記念の少頭数に、その萌芽が見て取れる、とも思うからです。

春3冠の充実のためには

サトノダイヤモンドは早々に宝塚記念を回避し、秋の凱旋門賞に備えた 【スポーツナビ】

 大阪杯、天皇賞(春)の2戦が終わって、最もガッカリさせられたのが、サトノダイヤモンドが早々に宝塚記念回避を表明したことでした。

 阪神大賞典をレコードとコンマ1秒差という出色の時計で快勝し、天皇賞ではキタサンブラックとの新旧菊花賞馬対決に敗れ、シュヴァルグランにも先着を許して3着に終わったものの、久々に“名勝負”を演じてくれました。それがレコード決着の、力と力の勝負だったゆえ、勝ったキタサンブラックを“現役最強”と持ち上げたメディアもありましたが、昨年の有馬記念でキタサンを破ったのは他ならぬサトノダイヤモンドです。応援しているファンにしてみれば「“最強”の称号は宝塚の結果をみてから」と言いたくなかったでしょうか。そういうファンの思いは、どこに向ければいいのでしょう。

 ヨーロッパ最高峰のレースで?

 それはそれで夢のある話ではありますが、でも一流馬の海外流出を防ぐ、という方の目的も達成されないどころか、加速させてしまうという皮肉なことになりませんか。

 最終追い切りを終えて、ますます“一強”ムードが強まる宝塚記念。今のところ登録した11頭全馬が出走を予定していますが、この思わぬ宝塚の少頭数が、他陣営が“一強”に恐れをなした結果か、あるいはGIが増えたことで使うレースの選択肢が広がった弊害なのか、はたまた日程その他、別の要因によるものなのか。

 その答えは、新しい動きがあった際の常ですが、すぐには判断できるものでもなく、来年以降に持ち越されます。

 新シリーズの初年度の今年、予定調和的に終わるのか、度肝を抜かれる結果になるかはさておくとして、とにかく国内GIを盛り上げ、充実させるには、何が必要なのか。熟考を重ねなくてはならないでしょう。

 しっかり前後左右、そして今後を見極める意味でも、初年度の結果を脳裏に焼付けなくてはなりません。

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著者プロフィール

中央競馬専門紙・競馬ブック編集部で内勤業務につくかたわら遊軍的に取材現場にも足を運ぶ。週刊競馬ブックを中心に、競馬ブックweb『週刊トレセン通信』、オフィシャルブログ『いろんな話もしよう』にてコラムを執筆中。

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