宮市亮はもう一度輝けるか―― 完全復帰へ、ベースを作った16-17シーズン

中野吉之伴

「宮市亮は過去の選手か」と聞かれたら……

膝の十字靭帯断裂からの完全復帰というのは、さまざまな困難を乗り越えなければならない 【Getty Images】

「宮市亮は過去の選手なのだろうか」

 もしそんなことを聞かれたら、「いや、そんなことはない」と僕は答えるだろう。でも「じゃあ、また活躍することができるだろうか?」と重ねて聞かれたら、「それは分からない」と口にするはずだ。そんな答えはずるいものかもしれないし、無責任に聞こえるかもしれない。だが、膝の十字靭帯(じんたい)断裂からの完全復帰というのは、途方もなくさまざまな困難を乗り越えなければならないものなのだ。

 僕の指導者仲間で、3度も十字靭帯を断裂した経験の持ち主が「思い通りに動かない膝を動かそうとすると、どこかで体が悲鳴を上げるんだよ」と話してくれたことがある。以前のイメージ通りに動かすことも、今の体に合わせたイメージを作り上げることも、とても難しい。だから、ここでは宮市の現在地を見定め、どんな将来の可能性があるかを探ってみたいと思う。

 まず、先にお断りさせていただきたい。僕が宮市の取材をしたのは2016−17シーズンで1試合だけだ。それも2部リーグ開幕戦で、相手がシュツットガルト。そこに細貝萌が加入したからだった、というのが主たる理由であったことは正直否めない。本来はもっと頻繁に足を運び、彼のプレーを追いかけ、彼の声に耳を傾けるのが礼儀であることは重々承知。だが、その時の彼のまなざしがまっすぐで、とても意志の力を感じさせるものだったので、少なからずも、彼の声を届けることができればと思ったのだ。地元紙の情報と合わせて、まとめた形であることをご了承いただければ幸いだ。

期待値の高かった16−17シーズンは物足りない結果に

今シーズンは筋肉系のけがで戦線を離脱することも多く、物足りなさが残った 【Getty Images】

 世界有数のトップクラブであるアーセナルに所属しながらレンタル移籍ばかりが続いていた宮市にとって、15年のザンクト・パウリへの完全移籍は大事な一歩だった。ブンデスリーガ2部リーグとはいえ、自分のホームをようやく手にしたのだから。

“日本製ロケット”とハンブルクの地元紙『モルゲンポスト』からは評され、監督のエバルト・リーネンをはじめ、そのポテンシャルを評価する声は今も変わらず多い。けがさえなければ、間違いなくレギュラー争いに加わってくる選手だとファンも見ている。

 加入直後に十字靭帯断裂の重傷を負った15−16シーズンはほとんどを棒に振ったが、最終節のカイザースラウテルン戦でようやく初スタメンを飾ると、この試合でキレのあるプレーを連続で披露。2ゴール1アシストと結果も出し、70分に途中交代するときには満員のホームスタジアムから大歓声が送られた。ザンクト・パウリでの初ゴールには、あふれる涙を止めることができなかった。

 苦しみを乗り越え、16−17シーズンは主力として活躍してくれることだろうと期待されていたが、結果としては筋肉系のけがで戦線を離脱することが多く、公式戦20試合に出場し、そのうちスタメンは7試合(うちフル出場は第17節ボーフム戦の1試合)。

 チームは昨季4位と好成績を残したために昇格候補にも入っていたが、序盤からつまずき、最下位にいた時期も長かった。それでも後半戦に入ると持ち直し、最終的には7位でフィニッシュ。そんな浮き沈みが激しいチーム事情の中でコンスタントにメンバー入りを果たし、多少の出場時間を得ていたことは評価されるべき点だが、期待値が高かったために物足りなさが残ったのも事実である。

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著者プロフィール

1977年7月27日秋田生まれ。武蔵大学人文学部欧米文化学科卒業後、育成層指導のエキスパートになるためにドイツへ。地域に密着したアマチュアチームで経験を積みながら、2009年7月にドイツサッカー協会公認A級ライセンス獲得(UEFA−Aレベル)。SCフライブルクU15チームで研修を積み、016/17シーズンからドイツU15・4部リーグ所属FCアウゲンで監督を務める。「ドイツ流タテの突破力」(池田書店)監修、「世界王者ドイツ年代別トレーニングの教科書」(カンゼン)執筆。最近は日本で「グラスルーツ指導者育成」「保護者や子供のサッカーとの向き合い方」「地域での相互ネットワーク構築」をテーマに、実際に現地に足を運んで様々な活動をしている。

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