【ボクシング】“因縁決着”で真価を示したウォード PFPトップ証明のため値千金の快勝

杉浦大介

コバレフ側が提訴を申し込もうとも優劣は明確

ローブローを主張するコバレフ陣営だが、試合内容を見ると明らかにウォード優位だった 【Getty Images】

 ただ……その一方で、冷静に振り返って、この試合の決め手が反則打だったとはやはり思えない。ウォードの方もコバレフの度重なるラビットパンチを訴えていたし、最終的に勝負を決定付けたのはカウンターの右ストレートだった。最後の2発の前の時点で、コバレフはすでに死に体だった。

 端的に言って、リマッチでの、いや、第1戦の後半以降と今戦のウォードは明らかにコバレフよりも優れたファイターだった。相手のスタイルと戦力を見て取り、適切な対応を完遂。今夜のファイトは、第1戦終盤ラウンドの続きのようだと感じたのは筆者だけではなかっただろう。

 クリンチとホールド、随所の反則まで駆使し、相手の持ち味を殺すスタイルを好きかどうかはまた別の話。全階級を通じても最も恐れられたパンチャーを、最後はほとんど戦意喪失させたことは認めざるを得ない。コバレフとそのプロモーターはコミッションに提訴すると息巻いたが、彼らが何と言おうと、両者の第3戦が必要と感じるファンはほとんどいないはずだ。

今後は「誰が黒星をつけるか」が焦点に

リング誌のPFPランクトップの座を確固たるものとすると同時に、「誰が黒星をつけるか」が今後の注目点になりそうだ 【Getty Images】

 フロイド・メイウェザー(米国)、マニー・パッキャオ(フィリピン)が2015〜16年に相次いで引退を発表して以降、ボクシング界は新しい支配者を探している感がある。メイウェザーとパッキャオはそれぞれの形で現役続行を表明したが、彼らの時代が終わったことに変わりはない。そして、PFPランキングでも、ゲンナディ・ゴロフキン(カザフスタン)、ワシル・ロマチェンコ(ウクライナ)、テレンス・クロフォード(米国)といった新勢力が上位を占めるようになってきた。

 しかし、ここで実績ではNo.1のウォードが宿敵を相手に底力を誇示したことの意味は大きい。コバレフ戦前はリング誌のPFPという評価には賛否両論があったが、リマッチ後、多くの関係者は“ウォードが全階級を通じてベストファイターという地位の足固めをした”と漏らしていた。

「(PFPトップは)重要だけど、私は投票権を持っていない。コバレフのような偉大なファイターに勝ったんだから、私に票が投じられることを望みたい」

 試合後の会見中、ウォードはそう語って“最強”の称号獲得に自信をのぞかせていた。一部から“メイウェザーの後継者には相応しい”と皮肉られそうな守備的ファイターだが、穴の少ないスタイルは誰にとっても厄介。目の前の試合に負けにくいのと同様、PFPトップの称号も一度確立すればなかなか明け渡さないだろう。

 メイウェザーの全盛期同様、今後のボクシング界では「ウォードに誰が黒星をつけるか」が焦点の1つとなっていくかもしれない。そんな立場を確固たるものにしたという意味で、今夜の勝利はやはりウォードにとって値千金。殿堂入りもすでに確実なキャリアの中で、いつか最大のハイライトとして振り返られることになっても不思議はないだろう。

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著者プロフィール

東京都生まれ。日本で大学卒業と同時に渡米し、ニューヨークでフリーライターに。現在はボクシング、MLB、NBA、NFLなどを題材に執筆活動中。『スラッガー』『ダンクシュート』『アメリカンフットボール・マガジン』『ボクシングマガジン』『日本経済新聞・電子版』など、雑誌やホームページに寄稿している。2014年10月20日に「日本人投手黄金時代 メジャーリーグにおける真の評価」(KKベストセラーズ)を上梓。Twitterは(http://twitter.com/daisukesugiura)

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