選択を迫られるトップレベルの選手たち “ネズミの頭”か“ライオンの尻尾”か――

ピッチに残り、スタンドを見つめていたモラタ

試合後のモラタ(左)の表情はCL制覇を成し遂げた直後にもかかわらず、悲哀を感じさせるものだった 【写真:Maurizio Borsari/アフロ】

 もうほとんどファンは残っておらず、スタンドは空っぽになっていた。数分前のお祭り騒ぎを象徴する紙吹雪が足元に散らばる中、アルバロ・モラタは1人ピッチに残ったまま、ミレニアム・スタジアムのスタンドを見つめていた。

 レアル・マドリーの一員としてチャンピオンズリーグ(CL)制覇を成し遂げた直後にもかかわらず、その表情は喜びどころか悲哀を感じさせるほど曇っていた。

 祭りの後もその場を離れず、周囲の光景を細部まで記憶に収めようとする者がいるとすれば、それはその日その場所で、自身の何かが終わりを迎えることを知っているからだ。あの日のモラタは、自分がほぼ確実に今季でレアル・マドリーから出ていくことを意識していたのだろう。

 下部組織から昇格した際、モラタは素晴らしい選手たちが前線に並ぶトップチームで居場所を確立することができなかった。ゆえにユベントスへと渡った彼は、移籍先で自身の実力を証明し、プレミアリーグ随一のストライカーであるジエゴ・コスタとスペイン代表で定位置を争うまでに成長を遂げた。

 それだけではない。レアル・マドリーはこの4年間で一度しかCLでの敗退を経験していないが、唯一の敗退は2014−15年大会の準決勝でユベントス相手に喫したものだ。あの時サンティアゴ・ベルナベウでレアル・マドリーを沈めるゴールを決めたのは、他でもないモラタだった。

多くの選手は“ライオンの尻尾”ではなく、“ネズミの頭”を選ぶ

多くの選手はベンチで長い時間を過ごすくらいなら、チームのレベルは劣っても継続的にプレーできる環境の方が良いと考えるだろう 【Getty Images】

 過去にもあった同様のケースと同じように、その後レアル・マドリーはモラタの買い戻しを試み、モラタ自身も愛するクラブと地元マドリー、そして母国のリーグへの復帰に気持ちが傾いた。

 だが、ユベントス在籍時ほど飛び抜けた存在ではなくなったとはいえ、レアル・マドリーではBBC(ガレス・ベイル、カリム・ベンゼマ、クリスティアーノ・ロナウドの3トップ)がアンタッチャブルな存在であり続けた。ベイルが良いコンディションのときには、絶好調のイスコですら先発に食い込めない――。再びモラタはそのような現実に直面することになった。

 それでもモラタは短いプレー時間とわずかな先発のチャンスをフル活用し、ベンゼマを上回る15ゴールを記録した(ベンゼマは11ゴール)。とはいえ、いまやそのベンゼマさえも放出される可能性が出てきている。レアル・マドリーは1億3500万ユーロ(約167億円)もの移籍金を準備し、モナコからキリアン・ムバッペを買い取ろうとしているからだ。

 こうした背景の下で、モラタの元にマンチェスター・ユナイテッドから魅力的なオファーが届いたことは、スペインを代表する2大クラブ、レアル・マドリーとバルセロナが置かれた困難な状況を表している。主力選手のバックアッパーを充実させたいクラブ側の思惑に反し、すでに重要なキャリアを築いているトップレベルの選手たちは、プレー時間が保証されないチームへ移籍することなど望んでいないからだ。

 たとえタイトルと大金が手に入るとしても、すでに高い評価を受けながら“ライオンの尻尾”となることを望む選手など稀(まれ)である。ベンチで長いシエスタ(昼寝)に入るくらいなら、チームのレベルは劣っても継続的にプレーできる環境の方が良い。多くの選手はそう考え、“ネズミの頭”となる方を選ぶのだ。

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著者プロフィール

アルゼンチン出身。1982年より記者として活動を始め、89年にブエノス・アイレス大学社会科学学部を卒業。99年には、バルセロナ大学でスポーツ社会学の博士号を取得した。著作に“El Negocio Del Futbol(フットボールビジネス)”、“Maradona - Rebelde Con Causa(マラドーナ、理由ある反抗)”、“El Deporte de Informar(情報伝達としてのスポーツ)”がある。ワールドカップは86年のメキシコ大会を皮切りに、以後すべての大会を取材。現在は、フリーのジャーナリストとして『スポーツナビ』のほか、独誌『キッカー』、アルゼンチン紙『ジョルナーダ』、デンマークのサッカー専門誌『ティップスブラーデット』、スウェーデン紙『アフトンブラーデット』、マドリーDPA(ドイツ通信社)、日本の『ワールドサッカーダイジェスト』などに寄稿

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