世界卓球で化けた張本、驚きの成長速度 敗れた水谷も脱帽「本当に強かった」

月刊『卓球王国』

戦前の予想を覆す圧巻の完勝劇

リオ五輪銅メダルの水谷(左)に圧巻の完勝劇。13歳の張本が世界に衝撃を与えた 【写真:なかしまだいすけ/アフロ】

 6月1日に大会4日目を向かえた卓球の世界選手権・デュッセルドルフ大会。混合ダブルスでの吉村真晴/石川佳純(名古屋ダイハツ/全農)の2大会連続のメダル確定など、日本選手の活躍が目立ったが、この日のハイライトは男子シングルス2回戦の水谷隼(木下グループ)と張本智和(JOCエリートアカデミー)のカードだろう。日本、そして世界が注目したリオデジャネイロ五輪銅メダリスト・水谷と、史上最年少世界ジュニア王者・張本の初対戦。世界選手権初出場の13歳・張本が、4-1と戦前の予想を覆す圧巻の完勝劇で会場にスタンディングオベーションを巻き起こした。

 両者の対戦が決まり、倉嶋洋介日本男子監督が「天才同士の対戦。第三者として見るのが楽しみ」と語った天才vs.天才の初対決。大方の予想は水谷の勝利だったはずである。しかし、試合が進むにつれて、その予想はグラつき始める。

 1、2ゲームともに、張本が台上から果敢に攻め込み水谷を圧倒。課題であったフォアも威力、安定感ともに確実に向上しており、アグレッシブに水谷を攻め立てていく。水谷は張本の速さについていけず、防戦一方の展開が続く。

 直後に試合を控え、練習会場にいた丹羽孝希(スヴェンソン)も、この試合の経過をスコアでチェックしていたが、水谷が点差を離され続ける一方的な試合展開に「水谷さん、ちゃんとやっているのかなと思った」と疑うしかなかった。

水谷「彼のために自分が成長したい」

完敗を喫した水谷。「彼のためにも自分が成長したい」と巻き返しを誓っていた 【写真:なかしまだいすけ/アフロ】

 3ゲーム目も張本の勢いは止まらない。怒濤(どとう)の連続攻撃で水谷に逆襲のチャンスを与えず、このゲームも張本が奪取し、一気に王手をかける。

 平野美宇(JOCエリートアカデミー/大原学園)の両ハンドが「ハリケーン」ならば、「トルネード」とでも形容したくなるほど、試合が進むにつれて張本の連続攻撃はコース取りの厳しさ、速さを増していく。

 4ゲーム目こそ水谷がタイムアウト後に逆転し、1ゲームを奪い返したが、5ゲーム目も流れは変わらない。張本が一歩も引かずに攻め切り、最後は見事なチキータからのバックドライブの連係で水谷のフォアを抜き去り大金星をあげた。

 勝利の瞬間はトレードマークの咆哮(ほうこう)ではなく、「信じられない」というような表情を浮かべながらのガッツポーズ。目の肥えたドイツの卓球ファンから送られた歓声と拍手が、13歳の少年が見せた会心のプレーを物語っていた。

 敗れた水谷は「完敗です」と試合を振り返った。

「相手に主導権を奪われて、立て直そうとしたけど、張本が良くてどうしようもなかった。試合前にこうしようという作戦はあったけど、彼がことごとく対応してきて、自分のやることがなくなってしまった」

 ゲームメークに長け、卓越した戦術転換で数々の逆転劇を演じてきた水谷がこのようなコメントを残すことは珍しい。それほどこの日の張本は手がつけられなかった。

「本当に彼は強かった。プレーが素晴らしかったし、食らいつくのが精いっぱいだった。僕が彼の良さを引き出してしまった。張本は非常に楽しみ。彼のためにも自分が成長したいし、まだまだ引退はできない」

 これまで、代表内で自らを脅かす存在がいないことをやゆするような発言もしてきた水谷。試合前に「(張本が)こういう舞台で僕を倒したら頼もしいと思いますね」とコメントしていたが、ついに脅威となる存在が現れた。

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