少年サッカーの本音と建て前について考える スペイン暮らし、日本人指導者の独り言(19)

木村浩嗣

勉強とサッカー、どちらが大事?

Aチームは春のカップ戦で“全勝優勝”。年少のチームも同時優勝したので一緒に祝った。こういう姿は「良いな」と思うが、Bチームの何人かは「応援したくない」と来なかったことも付け加えておきたい 【木村浩嗣】

 5月19日に公式戦の全日程が終了し、Aチームの方は春のカップ戦で“全勝優勝”を飾った。なぜカッコ付きなのかというと、5戦全勝のはずが子供不足で1試合が不成立になり、記録上は4戦全勝というふうになっているからだ。一方、Bチームは1分け4敗で5位という残念な結果に終わったが、気にしていない。4敗のうち2敗は子供不足で負けと見なされたもので、グラウンド上では2勝1分け2敗。2位のチームにも勝ったし、Aとはラストプレーで敗れる接戦だった。優勝したAとBの力の差はほとんどなかった。

 子供不足のことは散々嘆いてきたので(関連リンク参照)もう書かない。今回はスペインの少年サッカーで経験した本音と建て前のことを書こう。
 まず、みなさんに質問です。勉強とサッカー、どちらが大事ですか? 少年サッカーの指導者なら、100%「勉強」と即答するだろう。

 スペインでもそうである。「成績が悪かったから練習を休ませる」「言うことを聞かないから試合に参加させない」という親からの申し入れは「そうしてください。勉強、しつけが一番ですから」と教育者然として受け入れるのが原則だ。もちろん例外がある。

 Aチームの優勝決定戦の当日、怒り心頭の親からメッセージが届いた。「赤点を取ってそれを親に隠していていた。今日の試合には罰として連れていかない」。もちろん快諾し、スタメンの入れ替えをスクールの校長に伝えると「あいつがいないと負ける。優勝できないぞ!」と大慌て。「でも、勉強や家庭が優先でしょ?」と言い返すと「俺が父親を説得する」となり、15分後には出場OKとなって、その子は1ゴール、4アシストと優勝の原動力となった……。これ、エースでなければ説得なんかしていない。

育成と勝利の両立にこそ、神経をすり減らされる

 これに関連して、勝利か育成かという大問題がある。再び日本のみなさんに質問しよう。勝利ですか? 育成ですか? これは9割くらいが「育成」と答えるのではないか。

 うちは連盟所属のチームではなくスクールだからこそ、さらに育成の色合いが濃いはずだ。が、校長を始めとするこちらのスクールの本音は「育成も勝利も」だろう。

 これには私も賛成する。育成がきちんとできていれば、チームは強くなり勝利できるのが道理。競争意識を植え付けて厳しい社会に出ていく準備をするという面から考えれば、メンバー選出とかレギュラー優先とかも人間育成の一環と言えなくもない。また、子供たちのモチベーションを上げ、監督の信頼性を高めるためにも勝利が必要だ。

 だが、この育成と勝利を両立させることほど神経をすり減らさせられるものはない。勝利への最短距離の放り込みなのか、難易度が高いつなぎなのか、下手くそな子とエースのプレー時間にどのくらい差を付けるのか……。どういうやり方をしても勝利のために子供を犠牲にしているのではないか、という疑問はぬぐえない。

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著者プロフィール

元『月刊フットボリスタ』編集長。スペイン・セビージャ在住。1994年に渡西、2006年までサラマンカに滞在。98、99年スペインサッカー連盟公認監督ライセンス(レベル1、2)を取得し8シーズン少年チームを指導。06年8月に帰国し、海外サッカー週刊誌(当時)『footballista』編集長に就任。08年12月に再びスペインへ渡り2015年7月まで“海外在住編集長&特派員”となる。現在はフリー。セビージャ市内のサッカースクールで指導中。著書に17年2月発売の最新刊『footballista主義2』の他、『footballista主義』、訳書に『ラ・ロハ スペイン代表の秘密』『モウリーニョ vs レアル・マドリー「三年戦争」』『サッカー代理人ジョルジュ・メンデス』『シメオネ超効果』『グアルディオラ総論』(いずれもソル・メディア)がある

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