知られざる静岡東部のサッカー風景 J2・J3漫遊記 アスルクラロ沼津編

宇都宮徹壱

今は「ゴン中山」ではなく『ラブライブ!サンシャイン!!』

今季からJ3で戦うアスルクラロ沼津。近年ゴール裏にはある変化が表れているという 【宇都宮徹壱】

 ゴールデンウイーク(GW)2日目の4月30日、静岡県沼津市は好天に恵まれていた。この日、愛鷹(あしたか)広域公園多目的競技場では、J3リーグ第6節、アスルクラロ沼津対鹿児島ユナイテッドFCの試合が行われていた。

 村井満Jリーグチェアマンの視察に訪れた、この試合の公式入場者数は2,813人。同節に行われた8試合の中では4番目の数字だが、沼津のホームゲームとしては悪くない数字だ。この日は遠く鹿児島からも、多くのアウェーサポーターが訪れていた。スタジアムに向かうバスの中、車窓からくっきり見える富士山を見た鹿児島の女性サポが「やっぱり桜島とは違うわねえ」とつぶやいていて、妙にほっこりした気分になる。

 沼津のホームゲームを取材で訪れるのは2年ぶり。当時の沼津はJFLで、同じくJ3昇格を目指す鹿児島とデッドヒートを繰り広げていた。結果、ライバルに1年先を越されてしまうことになったが、昨シーズンに昇格の条件である「年間順位4位以内」をクリアして、見事に54番目のJクラブとなった。よって、2年ぶりとなる対戦に期するものを感じる、両チームのサポーターは少なくない。今回、鹿児島から大挙してアウェーサポーターがやってきたのも、そうした背景に負うところが大きい。

 それにしても、この2年の間に沼津にはどんな変化があったのだろうか。試合を振り返る前に、この点について言及しておきたい。まず、メディアの受付。スーツ姿の女性が対応していて、いかにも「Jクラブ」らしくなっていた。クラブのトップも、クラブの創設者である山本浩義が副会長となり、代わってスルガ銀行からやってきた渡邉隆司が代表取締役社長となった(これについては後述)。しかし私が最も興味を抱いたのが、ゴール裏で振られている旗に、アニメをモチーフにしたデザインが増えていたことだ。

「ああ、あれは『ラブライブ!サンシャイン!!』という、今はやっているアニメですよ」──そう教えてくれたのは、ゴール裏の沼津サポーターである。『ラブライブ!サンシャイン!!』というのは、沼津市を舞台としている学園アイドルアニメ。実在する風景や建物が出てくるのが特徴で、最近では「聖地巡礼」と称して観光に訪れるファンも増えているという。沼津といえば、JFL時代は「ゴン中山(雅史)が現役復帰したクラブ」として話題になったが、最近は「アニメの舞台になっている街のJクラブ」という認識の方が、より広まっているらしい。この2年での一番の変化は、まさにこの点に尽きるだろう。

タレントの流出と清水エスパルスの存在

良港として知られる駿河湾。首都圏からのアクセスがよい沼津は人気のある観光地である 【宇都宮徹壱】

 実は私は、この試合の前日(29日)に同じJ3の藤枝MYFC対カターレ富山を取材している。GWの序盤、せっかく静岡まで足を延ばしながら、なぜにJ1ではなくJ3の試合をハシゴしているのか。ここで、今回の取材主旨について説明しておきたい。

「静岡のJクラブ」といえば、オリジナル10のひとつである清水エスパルス、そして90年代終わりから00年代初頭にかけて黄金時代を築いたジュビロ磐田がまず思い浮かぶだろう。この2クラブについては、それぞれJ2降格時に当連載で取材しているが、一方でかねてより気になっていたのが、静岡第3と第4のJクラブである。沼津にしても藤枝にしても、実のところそれほど情報が伝わってくることはないが、それぞれ独自のサッカー文化があるのは間違いない。果たして静岡サッカーをJ3から見たら、どんな風景が広がっているのだろうか? そんな疑問を出発点に、沼津と藤枝を急ぎ足で回ってみることを思い立った次第である。

 最初に取り上げるのは、アスルクラロ沼津。本拠地である沼津市は、静岡県東部、伊豆半島の付け根に位置し、駿河湾をぐるりと囲むような形状をしている。東京駅からは、新幹線と在来線を乗り継いで1時間ちょっと。沼津インターチェンジがあるので、車でのアクセスもしやすい。すぐ間近で富士山を眺めることができることに加え、良港として知られる駿河湾からは新鮮なシラスやエビなどが獲れるため、さまざまな魚介料理を楽しむことができる。首都圏からアクセスしやすく、名所もコンパクトにまとまっているため、関東では手軽に楽しめる観光地として密かな人気を集めている。

 そんな沼津をはじめとする静岡県東部は、ことサッカーに関して言えば静岡県内では「辺境」の地位に甘んじてきた。東部出身のタレントといえば、小野伸二(沼津市)、高原直泰(三島市)、川口能活(富士市)といった元日本代表たちの名前がまず思い浮かぶ。しかし地元に強豪校がなかったため、いずれもサッカーが盛んな県中部の清水市(現静岡市)へと流出してしまった。

 一方、社会人サッカーもまた、なかなかこの地に根付くことはなかった。97年に旧JFLに昇格したジヤトコFCは、その後7シーズンにわたって全国リーグで戦ってきたが、03年10月にJFL退会。年内いっぱいで活動停止となり、東部で全国を戦う社会人チームはしばらく不在となった。その間、地元のサッカーファンの心の隙間を埋めてきたのは、J1の清水(実際、今でも東部在住の清水サポは多い)。タレントの流失に加え、近隣には人気Jクラブがあったため、なかなか「東部からJクラブを!」という機運が高まることはなかった。その停滞感を打ち破ったのが、アスルクラロ沼津のJ3昇格である。

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著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

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