“柔道日本一”王子谷剛志を強くする原動力 五輪への思い、仲間の存在

本川由依

もうひとつのモチベーション

決勝で豪快に技を繰り出す王子谷(右)。「やっと勝ち取ったチャンス」と話す世界選手権、そして3年後の東京五輪へ――。力強く、目標への道を歩み出した 【写真:アフロスポーツ】

 そしてもうひとつ、力になった存在があった。東海大付属相模高、東海大の7年間、一緒に稽古をしてきた同級生の松雪直斗(福岡県警)と五十嵐唯大(愛知県警)の2人。彼らが初めて、全日本に出場していたのだ。

 王子谷、松雪、五十嵐の3人は高校3年時の全国高校選手権、金鷲旗、全国高校総合体育大会で団体戦準優勝したメンバーで、王子谷が主将を務めた大学4年生には2人が副主将としてチームを支えた。また高校時代や学生時代、王子谷が臨む個人戦の試合では、アップや乱取りの相手をする「付き人」として、王子谷を2人がサポート。卒業後はそれぞれ違う進路に進んだものの、現在でも普段から連絡を取り合い、遠征時には一緒に食事へ出かける。そんな仲の良い3人だが、試合は実力の世界。全日本に出場するためには地域予選を勝ち抜かなければならないため、これまで同時に全日本の舞台に立つことはなかった。

 それだけに「2人の全日本選手権大会出場が決まったときは、本当にうれしかった。『全日本選手権っていう特別な大会の畳に一緒に上がる』と思うと自然とモチベーションも上がりました」と王子谷。今まで「付き人」として一緒に戦ってきた仲間が、同じ「選手」として大会に挑むことは大きなパワーへ変わった。「松雪と五十嵐も出るんだから負けてられない、俺も頑張らなきゃ」。大会前の練習も、仲間の存在を感じることで、自然と力が入った。

 大会中も「2人の存在が意識の中にあった」という。松雪は2回戦で上川大樹(京葉ガス)に、五十嵐は加藤博剛(千葉県警察)に敗戦したものの、「善戦している試合を見て、『勝たなきゃ』という気持ちが強まりました」と振り返る。優勝後、優勝者撮影を行う前に「どうしても3人で写真を撮りたい」と3人そろって写真を撮った。「3人が選手として出た大会で、優勝できたことがうれしい」と笑顔を見せた。

目標は東京五輪「僕にとって最後の五輪になると思う」

 多くの思いが重なり、手にした優勝と世界選手権への切符。

「やっと勝ち取ったチャンスを大切にしたい。目標にしている東京五輪は、僕にとって最後の五輪になると思う。だからこそ今回の世界選手権で結果を出して五輪へつなげるために、これからは(世界選手権7連覇中のテディ・)リネール(フランス)などの強豪と戦う準備をしっかりとしていきたい」

 覚悟を決めた王子谷が見据える先はあくまでも3年後。仲間の存在、リオ五輪の悔しさがある限り、王子谷の成長はとどまるところを知らない。

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著者プロフィール

1993年2月6日生まれ。広島県世羅郡出身、神奈川県在住。スポーツは柔道、バレーボールを中心に取材。スポーツマガジン「StandardNEXT」などに寄稿するほか、グルメ、ファションなどでも活動している。

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