セルティックスは“運命のチーム”か? 「トーマスの悲劇」を乗り越えPO第2Rへ

杉浦大介

ファンの胸を打ったトーマスのプレー

会見で「自分にとってつらい時期にも、当たり前の状態でいられる」と周囲への感謝を述べたトーマス 【Getty Images】

 何より、エースのトーマスは悲しみの中でもチーム最多の平均23.0得点、5.7アシストをマークした。ゴールに向かって飽くなきアタックを繰り返す姿は、ファンの胸を打ち、チームメートたちを勇気付けた。相手のエースPGラジョン・ロンドの故障離脱という幸運があったのは事実だが、トーマスの常軌を逸した頑張りがなければ、今シリーズの勝利はあり得なかったはずだ。

「みんなが僕に自信を与えてくれる。彼らがいなかったらやれない。みんな僕を信じてくれている。この場にいると正気でいられる。自分にとってつらい時期にも、当たり前の状態でいられるんだ」

「(セルティックスは)僕にとって重要であり続けてきた。アリーナで働く人から選手たち、コーチ陣まで、セルティックスに関わるすべての人たちが最高のオーガニゼーションだ。彼らは僕をサポートしてくれた。それについては言葉では言い切れないよ」

 事件後、初めて会見の場に登場したトーマスは、そう語って周囲に感謝を述べた。悲劇の後でも、ハイレベルなプレーで地元を鼓舞した、リーグで最も小柄なスコアラー。そんなトーマスに対し、同じように感謝したいと思ったボストニアン(セルティックスファンの愛称)は少なくなかっただろう。

“運命のチーム”とはまだ言えないが……

何らかの逆境をはねのけ、頂点に向かって快進撃を続けるチームを米国では“運命のチーム”と呼ぶ 【写真:USA TODAY Sports/アフロ】

“運命のチーム(The team of destiny)”――。何らかの逆境をはねのけ、頂点に向かって快進撃を続けるプロスポーツチームを米国ではそんな風に呼称することがある。最近では、13年4月に起きたボストンマラソン爆破事件のあと、前年の地区最下位からワールドシリーズ制覇を果たしたMLBのボストン・レッドソックスがそう呼ばれた。

 悲劇的な形でプレーオフをスタートしながら、チーム一丸となって最初の試練を乗り越えたセルティックス。第1ラウンドを突破したばかりの彼らを、“運命のチーム”と呼ぶのはまだ余りにも早すぎる。ただ、ブルズとのシリーズでは徐々にらしさを取り戻し、第6戦では、チーム全体で相手の倍以上となる28アシストをマークした。さらにこの日はスタメン全員が2桁得点という見事なプレーも披露してくれた。その吹っ切れたような動きが、「雨上がりの夜空」のような開放感を周囲に感じさせたのは事実である。

 30日から始まったイースタン・カンファレンス・セミファイナルで、セルティックスはシーズン中に2勝2敗と苦しんだ第4シードのワシントン・ウィザーズと対戦する(1日に行われた第1戦は123−111でセルティックスが勝利)。ウィザーズに勝ったとしても、最終決戦では、ほぼ間違いなく昨季王者クリーブランド・キャバリアーズが待ち受けるだろう。トーマス以外はプレーメーカーに乏しいチームにとって、今後のシリーズも楽なものにはなるまい。しかし、伝統のチームワークが健在ならば、上位進出のチャンスは必ずある。

 強豪との対戦が続く中で、第1シードのセルティックスはどれだけの粘り強さと闘志を誇示してくれるのか。少なくとも、一丸となって「トーマスの悲劇」を乗り越えた第1ラウンドの頑張りが、多くのファンに新たな希望とインスピレーションを与えたのは間違いない。

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著者プロフィール

東京都生まれ。日本で大学卒業と同時に渡米し、ニューヨークでフリーライターに。現在はボクシング、MLB、NBA、NFLなどを題材に執筆活動中。『スラッガー』『ダンクシュート』『アメリカンフットボール・マガジン』『ボクシングマガジン』『日本経済新聞・電子版』など、雑誌やホームページに寄稿している。2014年10月20日に「日本人投手黄金時代 メジャーリーグにおける真の評価」(KKベストセラーズ)を上梓。Twitterは(http://twitter.com/daisukesugiura)

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