「愛されたスケーター」村上佳菜子の引退 浮き沈み激しい競技人生も、最後は笑顔で

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「すべてにおいて限界を感じた」

現役引退を発表した村上佳菜子。国別対抗戦のエキシビションに登場し、ファンの前で現役最後の演技を見せた 【写真:坂本清】

 その発表は、演技者である村上佳菜子を紹介するアナウンスの最後に付け加えられた。「なお、村上さんはこれが現役最後の演技になります」。会場は驚きの声に包まれた。

 ソチ五輪にも出場し、日本女子フィギュアスケート界の中心的存在でもあった村上が現役引退を表明した。今月10日にはずっと背中を追ってきた浅田真央(中京大)も競技生活を退いており、くしくもそれに続く形となった。

「昨シーズンと今シーズン、たくさん練習をやってきたんですけど、結果につながらなくて、すべてにおいて限界を感じていました。できないから練習をやらないといけないのに、練習をやればやるほど、できないのに体の痛いところが出てきてしまったりして、すごい苦しかったです」

 村上は決断の理由をこう説明した。ソチ五輪以降は成績が低迷し、ここ2シーズンは世界選手権の出場を逃していた。まだ22歳でありながら、10代の若手が台頭し、その勢いに付いていけなくなっていたのも事実。最後の2年間は厳しいシーズンを過ごしたが、苦しみから解放された村上は笑顔で前を向いていた。

「意外と気持ちはすっきりしていて、現役はこれで終わりなんですけど、ここからがスタートだと思っています。今までとは違った努力をしていければいいなと思っています」

 そして3歳から始まった自身のスケート人生をこう表現した。「浮き沈みの激しい、落ち着きのないスケート人生でした」。

ソチ五輪を境にキャリアが停滞

16歳の伸びやかな演技が光った『ジャンピン・ジャック』。写真は10年12月、全日本選手権 【写真:坂本清】

 村上が一躍脚光を浴びたのはジュニア時代の2009−10シーズン。全日本ジュニア選手権、ジュニアグランプリ(GP)ファイナルを制すと、世界ジュニア選手権でも日本女子シングル選手6人目の優勝者となった。

 シニアデビューした翌シーズンも快進撃は続く。GPファイナルでは日本人最上位で銅メダルを獲得。全日本選手権でも3位になり、世界選手権の代表に選出された。あどけない笑顔がトレードマークで、この10−11シーズンのショートプログラム(SP)で滑った『ジャンピン・ジャック』は、元気な村上の魅力を引き出した代表作だ。

 全日本選手権では同シーズンから4年連続表彰台入り。特にソチ五輪の出場権が懸かった13−14シーズンは、SPとフリースケーティング(FS)共にほぼ完璧な演技で代表の座をつかみ、印象的な大会となった。シニアの舞台で確実に結果を残し、順調な成長をうかがわせていた。

 しかし、19歳で迎えたソチ五輪を境にキャリアが停滞していく。「目に見えない怖さがあった」という五輪は12位。緊張のあまり「FSでどういうステップをしたかも覚えていない」ほどだった。

 さらには、このシーズンをもって五輪に共に出場した鈴木明子が引退、浅田が休養に入ってしまう。村上にとって2人の存在は大きな支えだった。スケート人生で一番の思い出を問われたときも「あっこちゃん(鈴木)、真央ちゃんと一緒に五輪に行けたこと」と答え、「あの頃はすごく楽しくて、充実していた」と振り返った。「末っ子体質」だという村上にとって、頼りになる先輩2人がいなくなったのは、自身の支えを失ったようなものだったのだ。

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