【ボクシング】田中恒成が抱く“統一戦”への野望 強敵を打ち倒し、さらなる高みへ

船橋真二郎

ライトフライでの戦いは今年いっぱい

統一戦を熱望していつつも、まずは目の前のアコスタ戦勝利が重要となる 【スポーツナビ】

――そういう中で迎える全勝全KOのアコスタとの初防衛戦です。

 結構な勝負ですよね。ずっと統一戦をやりたいと言ってきながらも、それと引けを取らん、もしくはそれ以上の相手かもしれんし。だからモチベーションは一切落ちないですし、めちゃめちゃ緊張感はありますね。でも、何とか勝てたらいいなというよりは、この選手には勝たなアカンくらいに思ってます。自分への期待も込めて。

――「期待も込めて」というのは?

 もっともっと高いところを目指してますし、具体的に言うと俺の中では井岡(一翔=井岡)さんとやりたい気持ちがあるんです。やれるのか、やれんかは別に今はどうでもいいんですけど、井岡さんならアコスタをうまく倒しそうだなと考えたときに、『これは負けてられんな』と。そういう感じ(笑)。

――アコスタをKOして、統一戦をアピールしたいという気持ちもある?

 もうアコスタは倒すことを狙っていきます。指名試合でもあるんで、これをクリアすれば、やるべきことは済ませたことになるし、俺はやりたいことをやっていい状況になるので、あとは堂々とやりたいことを言うだけです。もう1回だけアピールして、別にできんなら、できんでいいですけど、俺もこの階級は長くても今年いっぱいだと思ってるんで。でも、どう考えても俺がいちばん統一戦をやりたがっとるし、そういう気持ちは残しつつも、もっと面白いことがたくさんあると思ってるんで、そこだけに執着せずにどんどんチャレンジしていきたいですね。いろんなことに。

――やるべきことをやって、やりたいことが実現しないなら、もうフライ級に上げて。

 そうですね。それも視野には入れてます。

海外も視野 でも今は「アコスタに集中」

階級の変更、海外での試合、王座統一戦――。田中はさらなる高みを目指す 【写真は共同】

――フライ級にはWBAに井岡選手、WBOには五輪連覇のゾウ・シミン(中国)もいるし、ミニマム級、ライトフライ級に続く3階級目を狙うドニー・ニエテス(フィリピン)が4月29日にIBFの決定戦をします。5月20日には全勝全KOの比嘉大吾選手(白井・具志堅スポーツ)がファン・エルナンデス(メキシコ)が持つWBCに挑戦する。やりたいことはいっぱいありそうですね。

 今、名前を挙げられた人とはやりたいですね。挑戦したいのは井岡さん。ゾウ・シミンはマカオをベースにやってるんで、そこでやりたいですし。ニエテスは年も年だし(5月で35歳)、あんなすごい選手とは引退する前にやりたいですね。

――マカオという話が出ましたが、海外でやりたいという希望も以前から言ってきました。

 そういうことも含めて、たとえばライトフライ級という階級で海外に出て、コンディションを調整しろと言われたら、やっぱり難しいので。フライ級に上げたときに積極的にチャレンジできるようにしたいですね。気持ちが守りに入らんうちに早めに。日本、ましてや名古屋だけに居座り続けてると出るのが怖くなるかもしれんし。現役生活も長いわけじゃないんで。

――プエルトリコに行ったことも、海外を含めて、もっと面白いことがありそうだと思わせる経験になったのでは?

 いや、プエルトリコは良かったですよ。いろんな意味で勉強にもなって。試合会場も、客がめちゃめちゃ多かったわけでもないし、日本とそう変わらんところでしたけど、なんかいいなと思ったし。歓声も野次も両方あって、本当に楽しんでるなという雰囲気があったので。これがもっと大きな舞台だったら、もっとすごいだろうな、という憧れからの海外でやりたい気持ちと、お前ばっかりホームでやってるなよ、という気持ちの両方があります(笑)。

――それこそ、先ほど、フエンテスとは日本では4−6なのが、メキシコでは3−7くらいになるかもしれないと。そういうところで勝負してこそという気持ちもある?

 そうですね。まあ、でも海外に呼ばれて行くのは相当難しいことだと分かってるんで。そういう道を待つんじゃなくて、そういう道を自分から作れるように自分からどんどん発信して、踏み出して行きたいなと思ってます。

――当然ですが、そのためにもアコスタ戦は絶対に落とせない。

 ずっと統一戦をやりたいと言ってきて、厳密に言ったら、八重樫選手、田口選手とやりたいと言ってきて、ここでコケたら相当カッコ悪いんで(笑)。アマチュアの経験も結構積んでるのもあるかもしれないですけど、実際に見て、アコスタはパンチだけじゃなく、ディフェンスもしっかりしてるし、本当に強敵です。今はアコスタだけに集中したいと思ってます。

■田中恒成(たなか・こうせい)プロフィール

1995年6月15日生まれ、岐阜県多治見市出身。8勝5KOの右ボクサーファイター。

 中学3年のときにU−15ボクシング全国大会で優勝。4冠を達成した岐阜・中京高校時代は井上尚弥の弟で同学年だった拓真(大橋)としのぎを削り、対戦成績は3勝2敗で田中が勝ち越し。アジアユース、世界ユースにも出場し、高校在学中の13年11月にプロに転向。国内最速タイ記録の4戦目で東洋太平洋ミニマム級王者となり、同最速記録の5戦目でWBO世界ミニマム級王者に。同王座は初防衛後に返上。16年12月、WBO世界ライトフライ級王座を獲得した。8戦目での2階級制覇は井上尚弥と並ぶ国内最速タイ記録。

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著者プロフィール

1973年生まれ。東京都出身。『ボクシング・ビート』(フィットネススポーツ)、『ボクシング・マガジン』(ベースボールマガジン社=2022年7月休刊)など、ボクシングを取材し、執筆。文藝春秋Number第13回スポーツノンフィクション新人賞最終候補(2005年)。東日本ボクシング協会が選出する月間賞の選考委員も務める。

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