レスターはなぜ「内部崩壊」したのか 現地記者が見たラニエリ解任の舞台裏

田嶋コウスケ

生まれた主力組と控え組の“温度差”

いつしか主力組と控え組に“温度差”が生まれ、レスターは一枚岩で戦えないように…… 【写真:ロイター/アフロ】

 不可解だったのは、普段のメンバー構成とは異なる「Bチーム編成」で臨んだにもかかわらず、このメンバーで実戦形式のトレーニングを行わず、ぶっつけ本番でピッチに送り出したことである。当然のように、出場した選手は戸惑ったという。それにもかかわらず、前述のようなコメントを試合後に残したのだから、批判された選手としては納得がいかないのは当然だろう。しかも、ドレッシングルームで選手たちに直接訴えれば済むことで、少なくとも記者会見で公にする必要はなかった。ラニエリは「今日の敗戦の責任は私がとる」とも言ったが、そうであれば発言をそこで止めるべきだった。

 さらにイタリア人指揮官は、調子の良し悪しに関係なく、ダニー・ドリンクウォーターやジェイミー・バーディー、リヤド・マフレズ、ウェズ・モーガン、ロベルト・フートらの先発起用に徹底的にこだわった。だからと言って、チームが安定飛行を続けていたわけでもない。

 控え組としては、負けが込んできたのに出番を与えられず、突然先発のチャンスが回ってきても、今度は事前準備がまったく行われない。そして、選手批判──。結果として、主力組と控え組に“温度差”が生まれ、気がつけば、レスターは一枚岩で戦えなくなっていた。このポルト戦で先発の機会が与えられなかったレオナルド・ウジョア(後半開始から出場)に関しては、これを機に退団を決意したともされる。

補強の失敗とラニエリのマネジメントのつたなさが響く

解任されたが、クラブ史上初の優勝を成し遂げたラニエリの功績は、これからも消えることはない 【写真:ロイター/アフロ】

 もちろん、クラブ史上初の優勝を成し遂げたラニエリの功績は、これからも消えることはない。1884年創設のクラブ史のなかで燦々(さんさん)と光り輝き続けるだろう。

 しかし今季、「残留争いは避けられたか?」と問われれば、答えは「イエス」である。リーグ優勝を成し遂げたメンバーをベースに、昨夏の市場でクラブ史上最高額となる約6000万ポンド(約84億円)の巨費で選手補強を行なったのが、その理由の1つ。守備のキーマンだったエンゴロ・カンテの退団を認めながら、質量とも心許ない守備陣に説得力のある補強を行わなかったことが「ラニエリ失脚」の主因であろう。

 それだけでなく、選手やコーチ陣の信頼が揺らぎ、次第に心が離れていった「マネジメントのつたなさ」も低迷の引き金になった。チームとして一体感がなく、不協和音が伝わってくるようだと、猛者が集うプレミアリーグで生き抜くのは難しい。

 一連の解任劇の理由を「選手の傲慢(ごうまん)」と取るか、「指揮官の落ち度」とするかは、意見が分かれるところだろう。しかし、クラブの先頭に立つのは、監督を務めるラニエリである。チームをひとつにまとめて戦っていくことも、65歳のイタリア人指揮官に課せられた重要なタスクだったはずだ。

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著者プロフィール

1976年生まれ。埼玉県さいたま市出身。2001年より英国ロンドン在住。サッカー誌を中心に執筆と翻訳に精を出す。遅ればせながら、インスタグラムを開始

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