日本ラグビー「9番」争いに挑む茂野 名前を覚えてもらえない時代からの飛躍
昨季はサンウルブズ、日本代表で活躍
素早い動きと長いパスが魅力のSH茂野 【斉藤健仁】
昨年とは違い、今年のサンウルブズは、スコッド53名中、34名が日本代表経験者で、ほとんどの選手が日本代表資格を持つか、今後、日本代表になる意志を持った選手で構成されている。昨秋、ジェイミー・ジョセフHC(ヘッドコーチ)が就任し、日本代表強化の柱にサンウルブズを置いたことで、サンウルブズ=日本代表という理想的な形でシーズンを迎えようとしている。
クイックタップ(相手反則の際に素早く仕掛ける)からの攻撃的な姿勢と長いパスが得意な茂野と言えば、サンウルブズだけでなく、昨年6月の日本代表でも活躍し、スコットランド戦で挙げたトライは、受賞こそならなかったが、昨年のワールドラグビーの「ベストトライ」にもノミネートされたほど。大阪府の岬ラグビースポーツ少年団で、兄・WTB洸気(NTTドコモ)の影響で小学校3年から競技を始め、江の川高校(現・石見智翠館)を経て、大東文化大学ではキャプテンも務めた。
しかし、昨年11月、日本代表に茂野の姿はなかった。トップリーグ序盤、NECでのパフォーマンスの悪さが響いた。茂野は「普通に選考に漏れました。徐々にやっていくしかない」と悔しそうな表情を見せていた。
NZでは「タナカ」と呼ばれたことも……
15年からのNZ留学が飛躍のきっかけとなった 【斉藤健仁】
日本がワールドカップに湧く中、ほとんど報道されることはなかったが、茂野はNZ国内でもレベルの高いオークランド代表として定位置を確保。試合に敗れたもののカンタベリー代表との決勝戦にも先発した。ITM杯の決勝は、田中もHO堀江翔太も経験できなかった、NZの選手も憧れる大舞台で、茂野は日本人として初の快挙を達成した。
NZでは、日本人SHということで、名前を覚えてもらえず、「カイト」ではなく、「タナカ」と呼ばれたこともあったという。ただ体重は5kgほどサイズアップし、持ち前のプレーの質の高さで徐々に頭角を現した。「球さばきでもフィジカルでも日本とは違いましたね。またITM杯になると個人ではなく、組織でプレーするので面白かった。今後も自分が成長していく過程の中で、(日本代表に選ばれ)2019年ワールドカップ出場できるようになればいいですね」(茂野)
NECでもコンビを組む田村優から学ぶ
昨年のスコットランド戦で挙げたトライは、世界の「ベストトライ」にノミネートされた 【斉藤健仁】
個人的には茂野の活躍はうれしかった。田中に続き、世界で戦えるポテンシャルと判断力を持った選手が出てきたと思った。本来であれば、昨年11月も茂野を呼び続けてほしかったが、本人はこう回顧する。「昨年、初めてトップで1年間プレーすることを経験して、(SO田村)優さんは、こういう経験しているんだなと思いました。そんな中でもパフォーマンスを出し続けた選手が(昨年11月の)日本代表でも出場していた」
またサンウルブズ、日本代表だけでなくNECでもハーフ団を組む田村優の背中を見て、しっかりオフとオンを切り替えることの大事さを学んだ。「僕はオフできていない時もありました。抜くときは抜かないといけない」。そこで、トップリーグのオフは家でゆっくりとドラマを見るなどして過ごして気分転換にもあてた。その甲斐もあって、昨年度のトップリーグでは10月末から調子を取り戻し、昨年に続いて、サンウルブズに招集された。