トランプ政権下でのNBAオールスター “不確定さ”の中で魅力ある予定調和
開催地決定でも紆余曲折
オールスター直前の会見では慎重なコメントを残したシルバーコミッショナー 【写真:USA TODAY Sports/アフロ】
「まずこのリーグのメンバーのことを考えなければならない。個々のケースを観察し、NBAファミリーへの影響を吟味する。そして政府への報告など、自分たちのできる役割を考慮していくつもりだ」
オールスターウイークエンドの恒例となった会見では、アダム・シルバーコミッショナーもそんな慎重なコメントを残していた。現状では 悲観的になり過ぎるべきではない。変化は必然だが、まずは様子を見るしかない。今ではこの「不確定さ(Uncertainty)」が、NBAのみならず、スポーツ界、ひいては米国全体を包み込んでいると言ってよい。
また、トランプ大統領下の新体制とは無関係だが、今年のオールスター開催地の選定でも紆余(うよ)曲折があった。一度はノースカロライナ州シャーロットでの開催が決まりながら、同州で性的マイノリティに対する法案(反LGBT法)が可決されたことから、NBAはニューオーリンズへの変更を決定。“夢の球宴”が約半年間という短い期間で準備され、行われたことも、今大会の“Uncertainty”を余計にあおった。
ネガティブに運ぶことが確実でなくとも、不確かな状況はそれだけで人を不安にさせるもの。どこの国の人間でも、NBAのスーパースターでも、それに関しては世界共通だろう。そんな微妙なタイミングで開催された2017年オールスターは、お祭り感が削がれたものになっても不思議はなかったはずだ。
急ごしらえでも安心感のある球宴に
混沌とした米国の情勢を考慮すれば、過去10年間で3度目という慣れた街での開催はあるいは適切だったのかもしれない。ニューオーリンズでのイベントの数々はやや急ごしらえの印象はあっても、王道を行く安心感のあるものになった。
この予定調和感はもともとNBAの魅力の1つでもある。 スーパースターたちはほぼ毎晩、決まって高得点をマークしてくれる。優勝を争えるチームが限られていても、それでもファンは熱狂的にこのリーグをサポートする。そんな良い意味でのマンネリは、変化の可能性を目前に突きつけられた現代では余計に意味があるものに映る。
そして、“時代を映す鏡”と言われるオールスターでは、レブロン、カリー、デイビスだけでなく、ギリシャ出身のヤニス・アデトクンボ(ミルウォーキー・バックス)、スペイン人のマルク・ガソル(メンフィス・グリズリーズ)といった外国人選手も存在感をアピールした。国内外のスーパースターたちが躍動する姿を見て、今後の変化を少なからず憂慮していたファンもあらためて安堵できたのではないか。
「良いときも悪いときも一緒にいよう 一人のときも 黒い雲が迫ってきたときも 僕は君のそばにいる 大丈夫だよ 一緒にいよう」
この日、ハーフタイムに登場したジョン・レジェンドの「stay with you」というヒット曲の中に、そんな歌詞がある。“何があろうとそばにいる”という思いを歌ったシンプルかつ情熱的な愛の唄。この気持ちがある限り、前に進んでいける。NBAファンがもしも同じように感じたのだとすれば、2017年のオールスターはおそらく成功だった。この日のゲームを見た人は、試合内容にエキサイトせずとも、リーグとスポーツの安定した未来にあらためて思いをはせることができたはずである。