J1に6人、韓国人GKが増えた理由 記者に聞いた日本の魅力とKリーグの事情
GKが育ちやすいKリーグの環境
鹿島に加入したクォン・スンテ。「こうしたチャンスはなかなか来ない」と移籍を決めた理由を語る 【(C)J.LEAGUE PHOTOS】
「(17年9月で)33歳という年齢を考えたとき、こうしたチャンスはなかなか来ない。最初で最後の機会と思っている」
実はこの言葉の裏に、韓国GKのJリーグ移籍事情が見え隠れする。ソン氏が語る。
「Kリーグには、GKのポジションに韓国籍を持たない選手は登録できないという規定があります。GKは無条件に韓国籍所有者だけということになります」
つまり、外国人GKがプレーできないことから、必然的に韓国人GKの育つ環境が確保できているということになる。なぜKリーグはこのような規定を設けたのか。その背景には当時、多くのクラブが外国人GKを呼び寄せたことが原因と言われている。
1992年から98年まで、旧ソ連出身のバレリー・コンスタンチノビッチ・サリチェフというGKが一和天馬(現在の城南FC)で7シーズンプレーした。彼についた愛称は“神の手”――。スーパーセーブを連発してピンチを救い、93年から95年までのリーグ3連覇に大きく貢献した。彼の活躍が引き金となり、他クラブが外国人GKを呼び寄せた結果、国内の優秀なGKが試合に出られない状況が続いた。
そうした状況を懸念したKリーグは、99年に外国人GKの保有及び出場禁止を宣言。それが今も有効なままなのだ。
余談だが、サリチェフはその後、2000年に韓国籍に帰化してシン・ウィソン(韓国語で“神の手”)と改名し、04年まで安養LGチータース(現在のFCソウル)でプレーした。ちなみにサリチェフのKリーグ8試合連続無失点記録は今でも破られていない
そうした状況を踏まえて、ソン氏はこう考える。
「韓国内でGKが外国人にポジションを奪われることはなくなり、選手がしっかりと育つ環境ができたのはよいことだとは思います。ただ、体格や実力があったとしても欧州クラブに移籍できるわけでなく、中国にも国内GKしか使えない規定があります。中東クラブも欧州からGKを引っ張ってくる傾向が強い。そうなると必然的に日本が一番の選択肢になりえるわけです」
前述した鹿島のクォン・スンテが「こうしたチャンスはなかなか来ない」と話しているように、海外移籍のチャンスはめったに訪れないのだ。
KリーグではGKの年俸が低い
チョン・ソンリョン(左)ら有力なGKが移籍する背景にはお金の問題もあるようだ 【(C)J.LEAGUE PHOTOS】
「やはりお金の問題が大きい。年俸をたくさんもらえるとなれば、選手の心は動くものです」
昨年12月、韓国プロサッカー連盟は16年Kリーグ・クラシック(1部)の11クラブと、Kリーグ・チャレンジ(2部)の10クラブの選手の年俸を公開。国内選手のトップ5にGKの名前はなく、名実ともに国内トップクラスと言われていたクォン・スンテでさえも高い年俸ではないことが確認された。ちなみにKリーグ・クラシックの国内選手の年俸1位は全北現代のキム・シンウクで、14億6846万ウォン(約1億4700万円)だった。
「KリーグのGKが移籍でき、より年俸が多くもらえる海外リーグといえばJリーグが唯一。KリーグではFWやMFに比べ、GKは相対的に年俸が低い。Jリーグに行くと、現状の2〜3倍の年俸はもらえるので、クラブのオファーを断るのは難しいでしょう。鹿島のクォン・スンテは、全北現代時代よりも約2倍の7000万円〜1億円はもらっていると推測されます」
こうした状況から、韓国では国内で育てた優秀なGKの日本への流出が問題視されているとも聞く。とはいえ、優秀なプレーヤーが海を渡り、経験を積むのは、決して悪い話ではない。アジアのレベルを引き上げることにも貢献できるはずだ。Jリーグで戦う多くの韓国人GKの奮闘が、新たな波及効果を生むことを期待したい。