欧州仕様の選手になりつつある南野拓実 目標は“日本人らしくないサイドの選手”

安藤隆人

ドイツ語でチームメートと言い合う場面も

チームメートとドイツ語を通してコミュニケーションを取るなど、チームの主軸になるべく着実に歩みを進めている 【安藤隆人】

 先のローゼンボリ戦で印象的なシーンがあった。

 37分に右サイドでボールを受けた南野は、対峙(たいじ)したDFをフェイントで揺さぶってから、ペナルティーエリアに沿う形でカットイン。鋭いドリブル突破に、相手CBを含めた2人が食いついた瞬間、裏のスペースに走り込もうとしていたFWディミトリー・オベリンに左足インフロントにボールを引っ掛けて、絶妙なスルーパスを送った。だが、オベリンは南野の意図に反して、その場に立ち止まってしまい、ボールはそのまま流れてエンドラインを割った。

「足元にくれよ!」と大きなジェスチャーで主張するオベリンに対し、南野は即座に「違うだろ、今のは2人の選手が俺に食いついていたから、君は裏に抜けなきゃいけないんだ」とこちらも大きなジェスチャーで主張し返す。さらに「今の形はその方が良いんだ」と伝えると、最後にはオベリンも「分かった」と納得した表情を見せた。

 もちろん、このやり取りはすべてドイツ語である(オーストリアはドイツ語が公用語)。しっかりと自分の意図を現地の言葉で伝え、相手に納得してもらう。そうすることで、以降の連係はスムーズになるし、自分のやりたいプレーを周りに知ってもらうことができる。

「あそこは裏の方が良い選択だった。たとえ合わなくても、しっかりとドイツ語で主張することは大きな意義があると思います」

 チームの主軸になるべく、着実に歩みを進める南野はオーストリアという国にもなじみ始めている。彼はザルツブルクの地でたくましく、そして信念を持ってサッカーに打ち込んでいる。

「海外でプレーすることは、小さい頃からの夢でした。日本にいるときから常に『ヨーロッパ挑戦はできるタイミングで行かなければいけない』と思っていました。20歳でチャンスがめぐってきて、このクラブ(ザルツブルク)は僕にとってすごく魅力的なチームだった。ザルツブルクでの2年間で本当に大きく成長できたと思いますし、このクラブにきて良かったと思っています」

南野「ここで結果を残すことが前提」

「日本を代表する選手になりたい」と話す南野。代表への強い思いは今も持ち続けている 【Getty Images】

 もちろん南野はしっかりとその先を見つめている。

「オーストリアリーグと言うのは、あまり日本では目に触れる機会がありません。やはり『日本代表に入りたい』という気持ちはありますが、そのためにはここで結果を残すことが前提になってくる。チャンスは絶対にあると思っています」

 日本代表で南野が狙うポジションはトップ下と両サイドハーフ。現在ザルツブルクで担っているポジションだが、日本代表においても激戦区であり、その争いに食い込むのは並大抵のことではない。

「ザルツブルクでプレーしながら、常に日本代表のイメージは持っています。1.5列目は自分の得意なポジションだし、サイドもやれる。日本を代表する選手になりたいし、今後は今の日本代表選手よりも、上のレベルのチームでスタメンを張れるようになっていかないといけない。

 サイドでプレーするにあたっては、“日本人らしくないサイドの選手”になりたいんです。(ウスマン・)デンベレのように破壊力を持って、縦に突破できるプレーが理想です。守備でも原口元気選手のように連続して何度もトライし続けるプレーができるようになりたい。さらにFWとしてフィニッシュワークもこなす――。そういう選手になりたいんです」

 自分の理想像を明確に描きながら、それに近づくためにオン・ザ・ピッチとオフ・ザ・ピッチの両輪をしっかりと動かして前進し続ける。22歳の若武者は、ヨーロッパ仕様の選手になろうとしている。まずは11日、リーグ再開初戦のザンクト・ペルテン戦でその真価を示す。

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著者プロフィール

1978年2月9日生まれ、岐阜県出身。5年半勤めていた銀行を辞め単身上京してフリーの道へ。高校、大学、Jリーグ、日本代表、海外サッカーと幅広く取材し、これまで取材で訪問した国は35を超える。2013年5月から2014年5月まで週刊少年ジャンプで『蹴ジャン!』を1年連載。2015年12月からNumberWebで『ユース教授のサッカージャーナル』を連載中。他多数媒体に寄稿し、全国の高校、大学で年10回近くの講演活動も行っている。本の著作・共同制作は12作、代表作は『走り続ける才能たち』(実業之日本社)、『15歳』、『そして歩き出す サッカーと白血病と僕の日常』、『ムサシと武蔵』、『ドーハの歓喜』(4作とも徳間書店)。東海学生サッカーリーグ2部の名城大学体育会蹴球部フットボールダイレクター

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