熊本に紫紺の大旗を持ち帰る――149キロ右腕の熊工・山口翔の覚悟
清宮、安田を真っすぐでねじ伏せたい
肩関節の柔軟性に富んでいる投球フォームから最速149キロのストレートを計時する 【写真=浅尾心祐】
「良いピッチャーと勝てるピッチャーは違う。夏の1球が、山口を変えたと思う」
夏場は猛暑の中で体を徹底的に鍛え、春に遅れた分を取り戻した。秋の県大会では、2回戦と準決勝で自己最速を5キロ更新する149キロを計測。“熊工”の屋台骨を背負う主戦として県大会準優勝へ導くと、九州大会でも4強へ進出している。
山口のポテンシャルの高さは、投球フォームを見ればすぐに分かる。幼稚園から小学校3年まで通った水泳教室により、肩関節の柔軟性に富んでいるのだ。ドジャース・前田健太の肩甲骨、北海道日本ハム・大谷翔平のバランス良い体の使い方を参考にしている。指先も器用でカーブ、スライダー、カットボール、スプリット、ツーシームと変化球を投げ分けるが、最も自信があるのはストレートだ。
「早稲田実・清宮(幸太郎)選手、履正社・安田(尚憲)選手らの強打者に対して、内外をうまく使い、真っすぐでねじ伏せたい。抑えるイメージはできています」
野球も授業も全力投球で向き合う
「毎週水曜日、保健体育の授業後に実習が控えています。持久走の後だと、体操服から実習服に着替えてもう、忙しい(苦笑)。A4用紙4枚にまとめるリポートは、翌日の昼休みまでの提出が義務付けられているんです。週に1回で正直、大変です」
山口の言葉からは、苦労ではなく、逆に充実した学校生活が伝わる。練習に取り組む姿勢は真面目で、チームメートから慕われているのも、グラウンドを見ればすぐに分かる。純粋な高校生の一面も。
「休日は、友達とゴハンを食べに行きます。今度は、ピザとパスタの食べ放題(笑)。みんなと盛り上がるのが楽しみなんです」
オンとオフの切り替えがうまい。
甲子園の結果次第でプロに挑戦
「甲子園の結果次第で(プロに)挑戦したいと思っています。ほかの投手にはない光るもの、長所が発揮できればいいです」
ほかの投手にはない、特長とは何か。
「負けない投手。この投手に任せておけば大丈夫、という存在感を見せたい」
この春のセンバツは特別だ。当然のごとく、「熊本代表」としての責任もある。
「熊本のために戦い、熊本を元気にしたい。熊本に紫紺の大旗、熊工にも持ち帰りたいです」
熊本工は過去に夏の甲子園で3度の準優勝。あの大地震から、1年も経過していない。被災地代表としての覚悟を持ち、一球に魂を込めて投げる。
(取材・文=岡本朋祐)