心技体で急成長 16歳の新女王・平野美宇 リオ落選から1年半、成し遂げた変化

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石川が感じた平野の成長

決勝で敗れた石川。一時はピンチを脱するも、平野の“力”に抑え込まれた 【写真は共同】

 一方、完敗で4連覇が霧散した石川は試合後、昨年の平野との違いを問われ「一番は自信がついたこと。すごく自信満々なインタビューをしていて、すごいなと思っていた」と、精神面にもっとも成長を見たと振り返った。

“自信満々なインタビュー”とは、平野が連日の会見で口にしていた「絶対に優勝したい」「自分ができることをすれば勝てる」「調子がすごくいい。石川さんに勝てる可能性はすごくある」などの発言。どちらかというとおっとりしたタイプの性格だけに、強気な発言は報道陣を驚かせたが、あえてそう公言することで自分を追い込んでいたのかもしれない。

 自信を得たきっかけは、10月のワールドカップ(W杯)制覇と、中国スーパーリーグ参戦の経験だ。W杯準決勝ではロンドン五輪銅メダリストのフォン・ティエンウェイ(シンガポール)を逆転で破り、史上最年少で優勝。快挙の余韻に浸る間もなく1週間後には中国に渡り、世界最高峰の選手が集う中国スーパーリーグに約1カ月間、参戦した。挑戦前は1勝を目標にしていたが、終わってみれば10戦3勝。これまでの取り組みが実を結び、目に見えて結果が出ている。

 異国で知らないチームに飛び込んだ中国での経験からは、「すごく強い選手、いろいろなタイプの選手と試合ができて、さまざまな戦型の選手に対応できるようになったと思います。中国選手からもアドバイスをもらったり。すごい成長できました」と、技術的にも大きな収穫を得ることができた。

世界と国内、両方で勝つ難しさ

皇后杯を掲げる平野。今後は、女王としての戦いが待っている 【写真は共同】

 W杯に続いて全日本選手権も史上最年少で制した平野は、2つの優勝が持つ意味合いの違いをこう語る。

「W杯優勝は世界に通用するようになったなと実感しました。全日本で優勝できたことは、代表の座を競う日本国内で勝てたというところに意味があると思います」

 今大会は盟友の伊藤美誠(スターツ)、男子の丹羽孝希(明治大)、吉村真晴(名古屋ダイハツ)など、五輪メダリストの早期敗退が目立った。「海外で勝てる卓球と日本で勝てる卓球は違う」(吉村)と、世界を転戦するトップ選手だからこそ、国内大会での戦い方の違いを感じることもあったかもしれない。そんななか、世界と日本を同時に制してみせた平野のポテンシャルには、誰もが期待してしまう。

 5月末からはドイツで世界選手権が開催され、平野には石川とともにエース級の活躍が期待されることだろう。また今後は国内で全日本女王として、すべての選手が“打倒・平野”を目指し、全力でぶつかってくるようになる。今大会、平野が石川へ挑んだように。

 男子シングルスで史上最多9度目の優勝を達成した水谷隼(beacon.LAB)は、王者のプレッシャーを「勝つことが当たり前だと思われ、ある意味ハイリスク、ノーリターン」と説明する。元女王となった石川は、「負けたことでプレッシャーから解放され、来年は挑戦者としてみんなと同じ目線で戦える」とどこか晴れやかな表情で語った。

 平野の立場は“追う者”から“追われる者”へと変化した。さらなる成長は、この重圧を乗り越えた先に待っている。

(取材・文:藤田大豪/スポーツナビ)

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