小林祐希、磐田時代に実感した食の大切さ 朝食を摂り始め、今ではけがとも無縁に

中田徹

朝食を摂り始めたことで生活リズムが改善

鈴木さん宅で初めて朝食をきちんと摂り始めた時に食卓に並んだ料理の数々。小林は大事に写真を残していた 【提供:小林祐希】

 食生活の改善に取り組もうと思った小林の依頼を受けた鈴木さんだったが、「浜松に朝7時から、そんなにしっかりとした食事を出すお店はありませんでした」と一度は途方に暮れた。しかし「私は小林祐希の才能を買っていたので、自分の家に呼んで朝ごはんを出せないか、妻と相談しました。彼女にとっては5時起きになりましたが、やろうと言ってくれました」。鈴木さんは「僕の家で朝ごはんを食べなよ」と言って、小林に合鍵を渡した。最初の日の朝食を、小林は大事に写真を残していた。

「初めて朝食を食べた時、すごくビックリしました。『世界のトップアスリートは、これぐらい食べている』ということだったんですが、朝食の習慣がなかったので最初はキツかった。炭水化物を数品、鶏肉、魚、サラダ、シリアル、ヨーグルト、牛乳、フルーツなど。俺は砂糖を摂らないから蜂蜜にしてくれたり、ご飯は二合食べたり、質と量が備わっています。

 食事はトレーニングですね。ジュビロにいる間、奥さんが3シーズン、食事を作り続けてくれた。ヘーレンフェーンに移籍してからも、鈴木さんがオランダに来たときは食事をサポートしてくれます。食事を変えたら身体が変わった。『あ、俺、全然けがをしなくなったし、ハムストリングも調子がいい』。そうやって1年が過ぎました。俺はそれから一度もけがをしていません」

 朝食を摂り始めたことによって、生活リズムも改善された。朝食を摂らなければ、朝9時に起きれば10時の練習に間に合う。そこから逆算すると零時に寝れば9時間。真夜中の2時に寝ても7時間の睡眠が確保できた。朝3時45分からチャンピオンズリーグ(CL)を見たいときは、夜10時から一度寝て、試合が終わってから二度寝すればよかった。

「私の家で朝ごはんを食べることは、祐希も申し訳ないという気持ちがある。だから朝6時半に起きて、7時の朝食に遅れないようにしていました」(鈴木さん)

「朝6時半に起きなければいけないということは、夜10時半に寝ないと8時間の睡眠がとれないですよね。だから10時にはベッドに入るようになりました。それで生活リズムがだんだんできていき、けがもしなくなってきた。体重も少しずつ増えていった。68キロぐらいしかなかった体重が、今は72キロか73キロです。日本ではCLを録画して見るようになりました」(小林)

「子供にはしっかり朝ごはんを食べさせてあげてほしい」

16−17シーズンの小林。「食事を変えたことから、全てが変わった」と振り返る 【Getty Images】

 朝食の習慣から始まった相乗効果が、小林に起こった。

「生活のサイクルが変わり、けがをしない体になりました。体が変わったら、今度はもっと強くしたくなりました。自分のトレーナーに『スプリント力を上げたい』『ジャンプ力を上げたい』『もっとシュートを打てる形を作りたい』『もっと体力をつけたい』『対人で負けたくない』などと伝えて改善しました。

 1年かけてしっかり食事を摂るようになり、さらに1年かけて身体が大分鍛えられて走れるようになって、スプリント力や1試合の走力が上がりました。そのパフォーマンスを維持するために、毎回同じメンタリティーと脳の状態を保つトレーニングを取り入れるようにもなりました。一気にやるのは無理だから、これで3年半。俺は食事を変えたことから、全てが変わりました。14年シーズン、15年シーズン、16年シーズンの3年間で自分が固まった。やっぱり少しずつだけれど成長しました」

 大人になってから食習慣を見直した小林は、子どもたちと父兄に声を大にして言いたいことがある。

「子供たちに言いたいのは、『食事もトレーニング』だということ。でも、それを楽しく食べさせるためにも、親の力が必要です。朝、子どもの時間がない時、お母さんは『時間がないからパンだけでも食べていきなさい』と言いますよね。そうではなく30分早く起こして、しっかり朝ごはんを食べさせてあげてください。サッカーに限らず、それが学校でのパフォーマンスにつながります。小学校、中学校は義務教育ですが、ただそこに通っているより、脳にエネルギーをいかせてフル活動させ、みんなが楽しく活発に過ごす場にするのであれば、しっかり朝ごはんを食べた方がいいです」

 朝食を摂る時の小林は、最初の15分間は黙々と食べ、そこから脳が活発になるのか45分間ぐらい、鈴木さんとずっとサッカー談義をしているそうだ。

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著者プロフィール

1966年生まれ。転勤族だったため、住む先々の土地でサッカーを楽しむことが基本姿勢。86年ワールドカップ(W杯)メキシコ大会を23試合観戦したことでサッカー観を養い、市井(しせい)の立場から“日常の中のサッカー”を語り続けている。W杯やユーロ(欧州選手権)をはじめオランダリーグ、ベルギーリーグ、ドイツ・ブンデスリーガなどを現地取材、リポートしている

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