好調マンUを支えるモウリーニョの変化 15試合無敗、優勝争いに踏みとどまる

山中忍

「けがの功名」から生まれたジョーンズとロホのCB起用

ジョーンズとともにCBに定着したロホ(右)。レディング戦での負傷の状態は…… 【Getty Images】

 守備面に関しても「けがの功名」ではあるが、変化がもたらされた。フィル・ジョーンズとマルコス・ロホのセンターバック(CB)コンビが定着したのは、やはりスウォンジー戦。昨夏の加入から即戦力となっていたエリック・バイリー、そして前体制下で成長が見られたクリス・スモーリングがいずれも故障、そしてボランチ兼サイドバックのダレイ・ブリントのCB起用に無理があると思われたところに、ジョーンズが長期欠場から復帰復帰した。

 ジョーンズもロホも、洗練された守りを見せるDFではないが、体を張った決死のディフェンスは得意中の得意。スウォンジー戦の3日前のヨーロッパリーグでフェネルバフチェに敗れた後、モウリーニョは「サッカーではクオリティーだけが物を言うわけではない。努力、決意、全身全霊をささげる姿勢も大切だ」と語っていたが、そうしたチームに不足していた要素を補えるコンビでもあった。前述した中盤の安定化もあるが、ジョーンズとロホが最終ライン中央に定着したマンUは、スウォンジー戦以降の全12試合を無敗で乗り切り、前半戦の日程を終えている(その後、ロホは1月7日のFAカップのレディング戦で負傷し、10日のリーグカップ準決勝のハル戦は欠場している)。

 その間には、クリスタル・パレス戦の両足をそろえたロホのタックルが「危険行為」としてメディアで騒がれもした。しかしモウリーニョは「勇気を持って堂々と戦う」ロホのパフォーマンスを「驚異的」とまで言ってたたえた。

 昨季、途中で職を追われたチェルシーでは選手へのムチがすぎたが、新任地での指揮官は公の場で選手をたたえることも忘れない。本来は「集団ありき」の監督だが、今季は試合後の会見やインタビューで、大物ベテランのイブラヒモビッチから19歳のマーカス・ラッシュフォードまで、複数の個人名を挙げて賞賛している。第15節のトッテナム戦(1−0)では、前週のエバートン戦で古巣に同点のPKを与え、この試合でサポーターから批難を浴びたフェライニに「ささげる」勝利となった。

タイトルレースとリバプール戦の重要性

第21節のリバプールとの上位対決は重要なタイトル争いの上でも重要な一戦となる 【Getty Images】

 そのトッテナム戦でプレミア初ゴールを挙げたのが、ヘンリク・ムヒタリアン。突破力も創造力もある新アタッカーは、移籍後3試合目のプレミア先発だった。昨季ブンデスリーガ年間最優秀選手への冷遇ぶりは、ちまたでは「残酷」と言われていた。だが、トッテナム戦を含む前半戦最終月を5試合出場3得点で終えると、起用を控えたモウリーニョの判断には「賢明」との意見も聞かれるようになった。

 確かに、初先発した第4節マンC戦(0−2)では、ダービーの雰囲気にのまれたようにさえ見えたし、地元紙の評価で10点満点中3点の出来に終わったショックを考えれば、継続起用が自信低下の悪循環を招いていた可能性はある。だが、ムヒタリアンは先のリーグカップ準決勝のハル戦でアシストを記録して、後半戦早々の勝利にも貢献。もっとも試合後のモウリーニョは、格下のハルを相手に前半は低調だったことから「(15日の第21節の)リバプール戦では、私もチームもファンも、もっとやらねばならない」とハッパをかけている。

 このホームゲームは、第20節を終えて2位につける伝統の宿敵との上位対決。2位から6位が5差にひしめいている状況にあり、勝てば2位との距離が詰まる。「12人目の選手たち」のモチベーションも、最高レベルに違いない。優勝争いの蚊帳の外だった過去3シーズンには、ファンでさえ目を覆いたくなる敗戦や眠気を誘う凡戦に不満を漏らしていた。しかし、今季は違う。調子もムードも上向きなモウリーニョのマンU。ファンならずとも、後半戦のタイトルレースから目が離せない。

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著者プロフィール

1966年生まれ。青山学院大学卒。西ロンドン在住。94年に日本を離れ、フットボールが日常にある英国での永住を決意。駐在員から、通訳・翻訳家を経て、フリーランス・ライターに。「サッカーの母国」におけるピッチ内外での関心事を、ある時は自分の言葉でつづり、ある時は訳文として伝える。著書に『証―川口能活』(文藝春秋)、『勝ち続ける男モウリーニョ』(カンゼン)、訳書に『フットボールのない週末なんて』、『ルイス・スアレス自伝 理由』(ソル・メディア)。「心のクラブ」はチェルシー。

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