【UFC】ロンダ・ラウジー、復帰戦へ(前編) 敗戦後の引きこもり生活と自殺願望

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テキサスの山奥に入り外界との連絡を絶つ

「私は立ったまま気絶していた」と敗れた試合を振り返るラウジー 【Zuffa LLC】

 ラウジーはオーストラリアからアメリカに戻る15時間のフライトの間、ずっと眠り続けた。本当は大嫌いな鎮痛剤をたくさん飲んだせいである。空港に着くとゴシップサイトが取材に来ていた。ラウジーは枕で顔を隠し、無言で取材を振り切る。

 その翌日、ラウジーは恋人のトラビス・ブラウン(米国)とともに、車を15時間走らせて、テキサスの田舎の牧場に向かった。感謝祭のターキーをハンティングする予定だった。お祝いの旅行になるはずだったのだが、一転、惨めな旅行になってしまう。テキサスは思いのほか寒く、夜には強い風が吹いた。ブラウンもターキーを仕留めることができない。

「私はただ、延々と眠り、ファストフードばかりを食べていた。それからたくさん眠り、目が覚めると森の中で排泄した。トイレットペーパーを1日1ロールも使ったと思う。まるで自分の失敗を自分の身体が受け入れていないみたいに。身体が自分自身を駆除しようとしているみたいだった。顔の皮膚が全部剥けてしまうんじゃないかと。全身が流れ出ちゃうんじゃないかと思った」

 携帯電話は電源を切って家に置きっ放しである。代わりにブラウンが、家族やエージェントからの最低限のメールに対応した。ラウジーはすっかり、外の世界とのつながりを断ち切っていた。何を言われているのかは想像が付く。「あれだけのヘマをやったんだから、何を言われても仕方がない」とラウジーは吐き捨てた。

「私はもはや何者でもない……自殺することも考えた」

自分の失敗が受け入れられず、自分自身を駆除しようとしていた 【Zuffa LLC】

 実際に世間では、まるでラウジーに天罰が下ったかのように、ここぞとばかりに喜ぶ人たちがいた。次期米国大統領のドナルド・トランプは「ロンダはいい人だとは言えない」とツイート。失神したラウジーの写真などを茶化(ちゃか)すように加工した画像を、50 Centやジャスティン・ビーバーといった著名人がリツイートで広めた。レディ・ガガはインスタグラムで「グローブタッチもできない人はこういう目に遭う」と、試合前にホルムのグローブタッチを拒んだラウジーのマナーを批判した。さまざまなことに対して自分の意見を臆さずに発言するラウジーには、喝采を送るファンばかりでなく、眉をひそめるアンチも一定層存在するのだ。

 その後に出演したトークショー『エレンの部屋』で、ラウジーは敗戦直後には自殺まで考えたと告白している。

「私は医務室の隅っこに座って『こんな私って、いったい何?』と考えていた。私はその瞬間、自殺することを思い立った。私はもはや何者でもない。やるべきことなど、何もない。そして、試合で勝てないなら、私のことなど、誰も気にも掛けない」

 テキサス旅行から戻ると、ラウジーの母親と姉が、玄関の扉を蹴破るようにやってきた。「私が暗闇に潜んで、アデルでも聞きながらヒステリーを起こしているとでも思ったんでしょう」とラウジーは笑う。家族はただ、集まってソファに座って延々と話をした。ラウジーはマリオカートで遊び、みんなでラウジーの愛犬モチと遊んだ。

 やがて、元柔道世界チャンピオンでもある母アン・マリア・デマルスが頃合いを見計らって娘を一喝した。

「一生引きこもっているわけにもいかないでしょう。まずは携帯の電源を入れて、みんなを無視するのをやめなさい。女なんだから、メソメソするのはやめなさい!」(文:高橋テツヤ)

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