日本勢が世界を牽引するライトフライ級 田口vs.田中の統一戦機運も高まるか

船橋真二郎

評価を高めるためKO勝利を狙う田口

田口は、前回の宮崎戦も快勝だったが、評価を高めるためにもKO勝利を欲する 【写真:ロイター/アフロ】

 これが5度目の防衛戦となる田口は16戦全勝13KOの戦績を誇る3位のカルロス・カニサレス(ベネズエラ)を指名した。23歳の若き強打者は昨年10月、現在1位のロベルト・バレラ(コロンビア)に判定勝ちし、ランク上位に進出。今年に入って、すでに6戦と精力的に試合をこなしているものの、めぼしい対戦相手は見当たらず、実力的には未知数と言える。スタイルとしてはファイターだが、ジャブに合わせる右はコンパクトでシャープ。そんな巧さも見せる一方でチャンスには多彩な角度から右を荒々しく振ってくる。

 外見に似合わず、田口も好戦的なタイプだが、8月の宮崎亮(井岡)戦では左ジャブと足でしっかり距離を支配し、着実にボクシングの幅を広げてきた。ただし、内容的には完勝でも、山場をつくれなかったことを反省。距離のアドバンテージを最大限に生かすことを念頭に置きながら、「今までの対戦相手の中で体の強さはトップクラス」と評価するカニサレスに対し、当たり負けしないフィジカル強化、接近戦での体の使い方と石原雄太トレーナーと対策をめぐらしている。田口、石原トレーナーともにKO決着への思いがひしひしと感じられる。評価を高めるためにも、統一戦につなげるためにもインパクトは必要。12月1日に30歳となって迎える節目の防衛戦を鮮やかにクリアすれば、視界は開けてくる。

キャリア最大の難敵に挑む田中

田中としてはキャリア最大の難敵との対戦となる 【写真は共同】

 ニエテスが返上し、空位になった王座を田中と争うのは1位のモイセス・フエンテス(メキシコ)。元WBOミニマム級、元WBOライトフライ級暫定王者でもあるフエンテスは、ニエテスと2度対戦するなど(1分1敗)、強豪との対戦経験も豊富で田中が迎えるキャリア最大の難敵と言える。長身ながら圧力をじわじわかけ、いかにも重そうな左右のパンチを繰り出す相手に対し、田中がどう対処するのか。井上尚と並ぶ国内タイ、8戦目での2階級制覇という記録以上に真価を問われる一戦になる。

 アマチュアキャリアをバックボーンに持つ21歳の田中は、まだ浅いキャリアの中で優れた対応力を発揮してきたが、本人は絶対的な自分の型がほしいと話す。田中の最大の武器であるスピードを“自分の型”としてどう取り込み、いかに生かしていくのか、現在も答えは模索中の様子。フエンテス戦に向けて、田中は精力的にスパーリングに取り組んでおり、様々な相手と手を合わせる中で引き出しを蓄積したいという狙いが見える。今回も状況に応じた対応力で勝負することになりそうだ。苦戦も十分に予想されるだけに、ここを勝利で乗り越えることは田中にとっては大きな意味を持つ。すでにライトフライ級でも減量は厳しく、その後は早めに勝負に出たいというのが本人と陣営の本音だろう。

来年は2冠王者の拳四朗も浮上か

日本、OPBFの2冠王者でもある拳四郎は、来年は世界挑戦確実だろう 【スポーツナビ】

 さらに来年、このライトフライ級戦線に割り込んでくるかもしれないのが東洋太平洋と日本の2冠王者である拳四朗(BMB)である。12月8日には3回TKOの圧勝で東洋太平洋王座の初防衛に成功し、元アマチュア国体王者からプロに転向して以来、9連勝(5KO)を飾った。父で元東洋太平洋ライトヘビー級、元日本ミドル級王者の寺地永会長は試合後、残るWBC王座を標的にしたいと話している。現在のWBC王者は木村からタイトルを持ち去ったガニガン・ロペス(メキシコ)。有力視されるのは八重樫に勝利したこともある元同級王者で現在1位のペドロ・ゲバラ(メキシコ)戦だが、ゲバラも減量は厳しそうで流動的な状況か。童顔からはうかがい知れないほど気持ちが強く、的確なポジショニングから果敢にカウンターを狙っていくのが拳四朗のスタイル。スパーリング経験のある田口、田中に対しても「いつもどおりに自分のボクシングをすれば勝てる」とさらりと言ってのける。

 長い歴史の中でも他団体の日本人王者同士による王座統一戦は2012年6月、当時WBC世界ミニマム級王者の井岡一翔(井岡)と同WBAミニマム級王者の八重樫の一戦のみ。実現はそう簡単なことではないが、今後の動向に注目してもらいたい。

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著者プロフィール

1973年生まれ。東京都出身。『ボクシング・ビート』(フィットネススポーツ)、『ボクシング・マガジン』(ベースボールマガジン社=2022年7月休刊)など、ボクシングを取材し、執筆。文藝春秋Number第13回スポーツノンフィクション新人賞最終候補(2005年)。東日本ボクシング協会が選出する月間賞の選考委員も務める。

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