オランダクラブと藤枝明誠の深いつながり 合同練習を経てアカデミー長が感じたこと
ファン・ペルシらを輩出したオランダの名門クラブ
オランダのエクセルシオールと深いつながりを持つ藤枝明誠。静岡代表として選手権出場が決まっている 【中田徹】
かつては小倉隆史もプレーした創設1902年の名門は、オランダサッカー界の重鎮であるリヌス・イスラエルやアー・デ・モスも所属し、若き日のサロモン・カルーやジョルディ・クラーシらが研さんを積んだことでも知られている。中でもクラブの象徴として知られるのはロビン・ファン・ペルシだ。ゴール裏の観客席は「ロビン・ファン・ペルシ・トリビューン」の名が冠されている。
ファン・ペルシは17歳の時に、ここから6キロ離れたフェイエノールトへ移籍したのでエクセルシオールのトップチームに所属した経験はないが、それでも「現役生活の最後はエクセルシオールでプレーしたい」という夢を持っている。同じくストリートフットボール系のテクニシャン、ムニル・エル・ハムダウイやサイード・ブタハルと過ごしたエクセルシオール時代の思い出はファン・ペルシにとって、とても楽しく懐かしいものなのだろう。
このエクセルシオールと深いつながりを持つ日本の高校がある。
第95回全国高校サッカー選手権に静岡代表として出場する藤枝明誠高校サッカー部は毎年、修学旅行として2年生がオランダに遠征し、エクセルシオールと親善試合を行ったり、クリニックを受けたりしているのだ。
「サッカーの練習は笑顔で終わらないといけない」
インタビューに応じてくれたマルコ・ファン・ローヘムアカデミー長(右) 【中田徹】
「練習メニューに格段、日本と違うところはないんだけれど、選手たちが笑顔なのが悔しいよなあ(笑)」
「見てよ。デモンストレーションを見ても、こっちのコーチはランニングフォームがきれい。インサイドのトラップも引くんじゃなくて、すぐに前へ動けるように押し出しているよね。こういうのは、われわれ日本人指導者も学ばなきゃいけない」
「いくつかのグループに分かれたサーキット形式の練習ですが、どの練習にも“つながり”がありますよね。うちは部員が多いから、これは使える」
「『サッカーの練習は笑顔で終わらないといけない』というアカデミー長の言葉、良いですよね。やはりサッカーは本来、楽しいものですから」
エクセルシオールのコーチ陣の中に、トップチームの中心選手であるライアン・コールワイク(31歳、MF)も混じっていた。エクセルシオールのアカデミー出身のコールワイクは、自らの子どももエクセルシオールでプレーしていることから、すでにジュニアの指導を始めており、藤枝明誠のクリニックにも参加したのだ。アカデミーからトップチームまで、エクセルシオールが一つのファミリーであることの証左だろう。
明るく、楽しく、真剣にサッカーと取り組み、大きなファミリーを形成する小クラブであること。それがオランダ代表歴代得点王ファン・ペルシをも虜(とりこ)にしているこのクラブの魅力だ。
藤枝明誠のクリニックを終えたばかりのエクセルシオールのアカデミー長、マルコ・ファン・ローヘム氏に話を聞いた。
指導者と選手たちがリスペクトし合っている
(録音機に向かって)テスト、テスト(日本語のジョーク)。
――これがエクセルシオールということ?(笑)
はい(笑)。ジョークが飛びかっています。人生は楽しまないと。仮に私がアヤックスやPSVといった強豪クラブのアカデミーに行っても“楽しむ”という姿勢は変わらないでしょう。サッカーで大事なのは楽しむこと。ナーバスになって、しかめっ面をしながらサッカーをやっても上達しませんよ。
ロッテルダムには、フェイエノールトというビッグクラブがありますが、エクセルシオールとの方向性は全く逆です。うちは、いくらミスしても構わない。ばかげたようなプレーでも、まずはトライしてみろ! ということです。そこから学ぶことは多いものです。
――チャレンジ!
そう、常にチャレンジすること。毎回のトレーニングセッションにはチャレンジがあり、楽しさがあります。
家族も同じです。妻がいて、子どもがいて、そこに楽しさがなければ、妻は家を出ていき、子どもは家に寄り付かなくなり、一家はバラバラになってしまうことでしょう。毎日、家族と楽しく過ごし、人生をエンジョイしているあなたの姿を、他人は見ているものです。こうして、あなたは多くのリスペクトを得ることができるのです。
――その素晴らしい家族こそ、エクセルシオールということですね
そう、エクセルシオールは家族です。そして、エクセルシオールのクラブ哲学は、相手をリスペクトすること。子どもをリスペクトすること、その親をリスペクトすること、指導者をリスペクトすることです。
私は選手たちを信用します。すると信用された選手は、私に対してリスペクトという形で返してくれます。その結果、お互いにより努力して、心を開いた話し合いができるようになります。
――こうして指導者と選手の間に化学反応が起こるんですね。
そうです。私はエクセルシオールでの18年間、こうやってずっと自分に正直にやってきました。私は毎日、鏡を見てこう自問します。
「マルコ、今日のお前は何が良かったか。そして何が悪かったか。お前に何か変えるべきことはないか?」
こうして自らの直すべきところを直し、自分自身を成長させるんです。
――自己批判ということですね。
そのとおりです。自己批判は大事なことです。U−19の試合後、私はロッカールームで選手に怒鳴り散らしたことがあります。次の練習で私は「試合の日の私の振る舞いは悪かった。謝罪したい」と謝りました。すると選手たちが「いいんだよ、監督。あの日の自分たちは、怒鳴られても仕方のない試合をした」と言ってきました。
「それでも、あれは言い過ぎだった」と私が言うと選手たちは「いいんだ、監督」と。そんなやり取りが、あの日は続きました。指導者と選手たちがリスペクトし合っていましたね。