オランダクラブと藤枝明誠の深いつながり 合同練習を経てアカデミー長が感じたこと

中田徹

指導者にとって大事なのは我慢すること

ドージャン・ハスポラト(右)など、エクセルシオールには他クラブが気付かなかったタレントがいると言う 【Getty Images】

――オランダの子どもたちは、かなり生意気ですから驚きです。

 私自身、若い頃はそうでしたからね(笑)。エクセルシオールの雰囲気が、お互いをリスペクトするムードにするんでしょう。そしてまた、われわれもそういった選手を探しています。中には傲慢(ごうまん)で難しい選手もいるんですけどね。それでもハードワークをすれば成長します。ハードワークを怠ったら「アマチュアクラブに戻れば」と言って移籍させます。

――オランダにはたくさんのアマチュアクラブがあるから、移籍先には困りませんものね。

 そう。オランダには2500ものアマチュアクラブがあります。エクセルシオールは数少ないプロサッカークラブです。もしプロクラブでプレーする機会を得たら、普通はそのチャンスをつかもうとするはずですよね。

 タレントは天からの授かりものです。指導者が手助けできるのは10%だけ。残りは持って生まれたタレントですから、その90%を有効活用しないといけません。サッカーにしろ、野球にしろ、バスケットボールにしろ、指導者に対してオープンなマインドを持ったタレントが、どんなスポーツでも成功します。

 指導者にとって大事なのは我慢すること。“今”の実力を見るのではなく、“将来”――たとえば5年後の実力を見てあげなくてはいけません。

――日本では早生まれ、オランダでは10月から12月生まれの子はサッカーの世界では不利だと言われています。

 そうですね。しかし、エクセルシオールのタレントは10月から12月の間に生まれているんです。ドージャン・ハスポラト(16歳のMF。今季トップチームでデビューを果たした)は2月生まれですが、うち以外のクラブは欲しがりませんでした。エクセルシオールには、他のクラブが気付かなかった遅咲きのタレントがたくさんいます。

――そこがエクセルシオール・アカデミー成功の秘密ですね。

 はい、そうです。そこにエクセルシオールの秘密が詰まっています。なにしろ、うちはアカデミーの予算規模がたった25万ユーロ(約3000万円)しかありません。ADOデンハーグは120万ユーロ(約1億4500万円)、ユトレヒトは140万ユーロ(約1億7000万円)、フェイエノールトは500万ユーロ(約6億1000万円)、アヤックスは700万ユーロ(約8億5000万円)と桁違いです。それでも時折、エクセルシオールがフェイエノールトを負かしたりするんですよ(笑)。エクセルシオールはオランダ中からリスペクトを受けています。

 ドージャンがトップチームでデビューしたように、指導者が我慢を重ねることで、いつの日か選手はプロに育ちます。「今を見るな。将来を見極めろ」と私は言い続けています。

 この選手の将来を見極める目が、指導者に必要な“タレント”です。そして成果を出そうとして急ぎすぎて、子どもたちにストレスを与えて選手の成長を止めないこと。選手に練習をさせるだけでなく「家はどう?」「しっかり食べている?」「クラブは好き?」とコミュニケーションを取り続け、サッカーの面では父親役を果たさなければいけません。われわれは“サッカーのパパ”なわけですから、その分責任が伴いますが、素晴らしいことだと思っています。

日本人選手は監督の言うことに疑問を持たない

藤枝明誠とのクリニックに参加して何を感じたのだろうか? 【中田徹】

――今回、藤枝明誠のクリニックを通じて感じたことは?

 今日のトレーニングセッションでも言いましたが、日本の選手はお互いをコーチングしたがらず、とても静かですね。間違ったプレーをしても、お互いに指摘しません。それが日本人の特性なのでしょう。ですが、サッカーというのは言い訳が通用しない世界です。お互いが真実を語り、理解し合わないといけません。その積み重ねで、チームは良くなるのです。しかし、日本人は何か厳しいことを指摘されると「きっと自分のことが嫌いなんだ」と受け取ってしまうんですよね。

――最近、静岡に行ってクリニックを行ったんですよね。日本ではどのような経験をされましたか?

 初めて日本を訪れてから12年になりますが、サッカーのレベルがものすごく上がりました。戦術的なミスをしなければ、日本は世界のトップに立てます。テクニック、スピードがあるし、ハードワークができる。国への思いも強いです。しかし、ハイテンポで攻撃し続け、バランスが悪いから相手にスペースを与えて簡単に失点してしまう。ハイテンポとローテンポを使い分けて、サッカーにおける我慢を学ばないといけないと思います。そこが戦術眼ですよね。

 ビルドアップでも目的を分からずにやっている気がします。また、選手たちは監督の言うことに疑問を持たず、「なぜ?」と質問しません。

 私は日本の文化を愛してます。日本人の真面目さも理解しています。そしてスポーツに対して150%の力を注いでいることも分かります。だけど、もっと楽しんでほしいのです。もし楽しむということが加われば、さらに日本のスポーツは成長することができます。

 私は各国の文化をリスペクトしていますが、時には変化させることも大事です。オランダ、スペイン、イングランド、ドイツ、ブラジル、アルゼンチンなど、他国から受ける違った味の文化を受け入れることも大事ではないでしょうか。日本にはたくさんのタレントがいますから、少しもったいないと感じてます。

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著者プロフィール

1966年生まれ。転勤族だったため、住む先々の土地でサッカーを楽しむことが基本姿勢。86年ワールドカップ(W杯)メキシコ大会を23試合観戦したことでサッカー観を養い、市井(しせい)の立場から“日常の中のサッカー”を語り続けている。W杯やユーロ(欧州選手権)をはじめオランダリーグ、ベルギーリーグ、ドイツ・ブンデスリーガなどを現地取材、リポートしている

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