谷口彰悟「最後は笑って終われるように」 CSで見せる“風間サッカー”の集大成

原田大輔

チームで唯一、リーグ戦全34試合に出場

風間サッカーの申し子とも言うべきCBの谷口彰悟に話を聞いた 【スポーツナビ】

 今シーズンの川崎フロンターレで唯一、リーグ戦全34試合に出場したのが谷口彰悟だ。

 チームに加入して3年目を迎える彼は、風間八宏監督が掲げるサッカーの申し子のようでもある。ただ、それは単に出場機会が多いからということではない。本人も「不思議な縁ですよね」と語るように、風間監督が川崎を率いる前からの付き合いということも大きいだろう。

「僕がフロンターレに加入したのは、高校を卒業するときにも一度、声を掛けてもらっていて、そのときは大学に進学しようと決めていたので断りましたが、大学を卒業した4年後にも、誘ってもらったというのが大きな理由です。加えて、大学で指導を受けた風間さんが監督をしていたというのも要素のひとつでした」

 谷口が“超”攻撃的と言われるそのサッカーに初めて触れたのは、高校を卒業した2010年だった。進学した筑波大学のサッカー部を指導していたのが、他でもない風間監督だった。

「最初は本当に、サッカーの基本中の基本である“止めて蹴る”の練習ばっかりでしたね」

 少し当時を懐かしむように谷口は振り返る。

「サッカーをやっていれば、“止めて蹴る”は当たり前のプレーじゃないですか。でも、その“止めて蹴る”という基本的なプレーを、とことん意識して取り組むと、ここまで違うんだということに気づかされました。何が違うかというと、一言で言えば質です。

 よく風間さんからは、トラップするときは『ボール(の勢い)を殺せ』と言われていました。逆にパスを出すときは、『生きたボールを蹴れ』と言われる。止めるときは、ボールが回転することなくピタッと足に止まるイメージで、蹴るときはボールの中心をしっかりと捉えて、芝生の上をスーッと滑っていくようなイメージですかね」

風間監督が求めるのは“止めて蹴る”プレー

風間監督が言う「個人が戦術になれ」という言葉。谷口はメッシを例にその言葉の意味を教えてくれた 【写真:ムツ・カワモリ/アフロ】

 大学での練習は、戦術的なトレーニングは少なく、ほぼ個人の技術を向上させるメニューだったという。

「風間さんが求める、“止めて蹴る”が無意識にできるようになると、そこに注意を払わなくてもよくなるので、他のことがいろいろとできるようになりました」

 谷口が大学に在学中の12年4月に、風間は川崎の監督に就任したが、2年後に再びそのサッカーに触れたときも、要求されることは変わらなかった。

「ただ、よりプロ仕様になっていました。シュートやパスといった基礎的な練習は変わっていなかったですが、ハーフコートでのゲーム形式の練習や、後ろからつなぐビルドアップの練習など、よりチームとしてのトレーニングが増えた印象はあります。大学時代と今を比べると、サッカーの本質とも言うべき、点を取ることを見据えた練習が多くなっている気がします」

 大学で2年、川崎で3年と5年間指導を受けている谷口だからこそ分かる“風間サッカー”とはどのようなものなのだろうか。そう尋ねると「難しいですね」と悩みつつ、答えてくれた。

「風間さんがよく言っていたのは、『個人が戦術になれ』ということでした。例えば、バルセロナで言えば、リオネル・メッシがいることで、みんながメッシにボールを預けることが1つの戦術になっていますよね。そこからメッシが相手をかわしたり、マークを引きつけたりすることで、次のプレーが生まれる。

 それを見たときに、まさにこれが『個人が戦術になれ』ということか! と思ったんです。それぞれが高い技術を備えていれば、かなり強固な集団になれる。少しオーバーな言い方かもしれませんが、それによって相手を無力化できるサッカーなのかなと思います。一人一人が戦術になり得れば、相手が誰であろうと関係がなくなる。そこを目指しているんじゃないかと感じています」

常に心掛けているのは「攻撃の起点になる」こと

“超”が付くほどの攻撃的なチームにおいて、CBの谷口が心掛けるのが「攻撃の起点になる」ことだと言う 【写真:YUTAKA/アフロスポーツ】

 自陣に引いて守備を固める相手であろうが、前線からプレスを掛けてくる相手であろうが、川崎の戦い方が変わらない理由は、そこにあるのかと聞けば、すぐにうなずく。

 では、“超”が付くほど攻撃的なチームで知られる川崎において、主にセンターバック(CB)を担う谷口はどのような役割を求められているのだろうか。

「これはフロンターレに限ったことではなく、現代サッカーにおけるCBに必要なことですが、ビルドアップと攻撃に参加する能力は本当に大事だと思っています。ボランチで(中村)憲剛さんや(大島)僚太が出ているときは、相手はそこをまず潰しにくる。

 CBである僕は、いかにしてそこを潰されないようにパスを通せるか。また、相手がボランチを潰そうと狙っているのであれば、一度、パスを当てて、自分が動いてボランチのようなプレーができるようにと考えています。攻撃時は常に起点になれるようなプレーを心掛けていますね」

 川崎は、攻撃的なサッカーを標ぼうしているだけに、ピッチに立つ選手は攻撃を好む傾向が強く、ボランチはもちろん、両ウイングバックも積極的に攻撃参加する。ときにリスク度外視になることも多く、守備陣は窮地に立たされることもある。谷口も「後ろの負担が、かなり大きいチームだとは思いますし、そこはある程度覚悟しています」と、苦笑いを浮かべる。

「ただ、正直周りがノッているときは、余計なことは言わずに、『行っていいよ』と思っていますね。周りがノリにノッているときは、とことん乗せるというか(笑)。イケイケになっているときのうちは強いので。ただ、ちょっと流れが悪くなってきたときには、チームを引き締めるというか、指示を出すようにしています』

 また、谷口が、試合の流れを読み、チームをコントロールしようと考えたのは、「GKの(チョン・)ソンリョンに自分の前の選手を動かせと言われたことも大きい」と話す。

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著者プロフィール

1977年、東京都生まれ。『ワールドサッカーグラフィック』の編集長を務めた後、2008年に独立。編集プロダクション「SCエディトリアル」を立ち上げ、書籍・雑誌の編集・執筆を行っている。ぴあ刊行の『FOOTBALL PEOPLE』シリーズやTAC出版刊行の『ワールドカップ観戦ガイド完全版』などを監修。Jリーグの取材も精力的に行っており、各クラブのオフィシャルメディアをはじめ、さまざまな媒体に記事を寄稿している。

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