川崎で数少ない、タイトルの味を知るGK チョン・ソンリョンが振り返る今シーズン

原田大輔

中村が「彼のおかげで勝てた」と語るGK

川崎のゴールマウスを守る韓国人GKチョン・ソンリョンに話を聞いた 【スポーツナビ】

 川崎フロンターレの象徴であり、キャプテンを務める中村憲剛は、今シーズンのJ1リーグを年間2位で終えることができたチームの強さについて、こう話してくれた。

「ひとつはGKですよね。彼のおかげで勝てた試合がかなりある。以前から、GKは大事なポジションだということは分かっていましたが、あらためて、その重要性を再認識しました」

 中村が指す“彼”とは、GKチョン・ソンリョンのことである。

 韓国代表として2度のワールドカップと五輪を経験している彼は、今季より川崎に加入すると、リーグ戦29試合でゴールマウスを守った。“超”攻撃的で知られるチームが、昨季よりも失点を9減らし、いわゆるウノゼロと言われる1−0の接戦を6試合(うちチョン・ソンリョンが出場したのは5試合、15年シーズンは2試合)もモノにすることができたのは、間違いなく背番号1を付ける守護神の存在が大きいだろう。

 190センチの大きな体でインタビュールームの小さな椅子に腰掛けた彼は、自身にとって初となる異国でのチャレンジと、川崎への加入について、こう振り返ってくれた。

「理由は3つほどあります。1つ目はフロンターレが、ファンやサポーターとの距離が近いということ。その温かさに惹かれました。2つ目は、これまで(チームが)タイトルを獲得したことがないということ。優勝するだけの力を持った選手たちがいるのは知っていたので、自分が加わることで、それを実現させられればと思ったんです。最後の3つ目は、サッカーそのものですよね。攻撃的で魅力的なサッカーをしているチームだったからです」

 1つ目に関しては「ただ、まさかバナナの被り物をするとは思っていなかった」と笑ったが、加入するとすぐに、チームのレベルが高いことは実感したという。

“超”攻撃的なチームでGKに求められたこと

今季の開幕戦であり初出場となった広島戦において、1−0で勝利できたことが大きいと振り返る 【写真:長田洋平/アフロスポーツ】

「キャンプのときに、ミニゲームやシュートゲームをやっただけでも、このチームには攻撃的な選手たちが多く集まっていることが分かりました。そういう練習のときですら、みんな、下がることなく、前へ前へと出ていってしまう。加えて、すごく狭いスペースでも、次から次にパスがつながるので驚きました。その攻撃的なスタイルこそが、フロンターレの特徴だと思います。

 ただ、チームが攻撃的なサッカーをしながらも、守備の選手としては、しっかり準備をして失点を防がなければならない。最初はチームのスタイルに適応するのに時間がかかりましたが、徐々に作り上げていくことができました」

 その中でGKのチョン・ソンリョンに求められたのが、足元の技術だった。

 ボールを保持し、パスを多用するチームにおいて、最後尾にいるGKにも、ただ相手のシュートを防ぐだけでなく、チームの攻撃を彩るビルドアップであり、パスをつなぐプレーが求められたのだ。

「前所属先の水原三星ブルーウィングスや韓国代表でもつなぐプレーは求められていたので、足元の技術を向上させる練習はしていましたが、フロンターレに来てからは、さらに意識するようになりましたね。だから、練習からかなりトライしました。ただ、そこで救われたのが、風間(八宏)監督からの言葉でした。

 風間監督は『チームはポゼッションサッカーを目指しているから、GKもつなぎに参加してもらいたい。ただ、全部が全部というわけではない。相手が前線からプレスを掛けてきたりして、どうしても苦しいときは、蹴ってもいい』と言ってくれた。僕はロングキックの技術にも自信があって、風間監督はそこも理解してくれていた。そうした言葉を掛けてくれたこともあって、少し気持ち的には楽になれました」

 また、自身にとっては今シーズンの開幕戦となったサンフレッチェ広島戦に1−0で勝利できたことが大きいと話す。

「開幕戦の相手が、前年度王者のサンフレッチェでしたからね。ずっと、『初戦が大事』と周りには言っていたんです。あの試合に無失点で勝利できたことで、チームメートにも信頼されたし、自分自身もスッと入ることができました」

試合中に最も叫んだ日本語は「集中」

今季の守備を担ってきたのは多国籍な陣容の3人。コミュニケーションは日本語で取っていたそうだ 【スポーツナビ】

 ただ、チョン・ソンリョンは試合をこなす中で、チームとしての課題も感じていた。それは、“超”攻撃的と言われる川崎が長年、抱えているテーマでもあった。

「守備に関して、みんな一生懸命やろうとはしているけれど、どうしても攻撃に意識がいくあまり、散漫になる時間帯があった。だから、そこはかなり声を掛けました。言い続けていくことで、だんだん改善されて、自分自身もさらに適応することができたと思います。

 チームの中で、特にコミュニケーションを取ったのが谷口彰悟選手ですね。シーズン開幕当初、一緒に食事に行ったときには、『しっかり守りたいのであれば、センターバック(CB)が、その前にいる選手をちゃんとコントロールしなければならない』ということは言いました。それ以上に、彼自身もかなり声は出していましたし、何より最後のところでは、プレッシャーをかけたり、タックルしたりと、かなり体を張ってくれていました。その姿勢がチーム全員に伝わったことが、今シーズンの勝因として大きいと思います」

 3バックをベースに4バックも併用する川崎ではあるが、今季の守備を担ってきたのは、GKのチョン・ソンリョンを筆頭に、谷口とブラジル人のエドゥアルドの3人である。かなり多国籍な陣容だが、どうやってコミュニケーションを取っていたのか聞いてみた。

「基本は日本語です(笑)。『上げろ!』『下げろ!』『寄せろ!』って。エドゥ(エドゥアルド)も日本でのプレー経験が長いので、だいたいの日本語は分かります。でも、危険なときはポルトガル語で『ラドロン』と叫びました。相手が迫ってきているぞって」

 その中でも、試合中に最も叫んだ日本語が「集中」だったというから、チームの課題を改善しようと必死だったのだろう。

「ちょっと相手への寄せが甘かったり、危ないプレーが続いたときには、唾を飛ばしながら『集中!』と何度も叫びましたね。でも、基本的には怒鳴るのではなく、『大丈夫、大丈夫』という声を掛けるようにしています。なぜなら、ミスしたことは本人が一番分かっているから。この間(11月12日)の天皇杯4回戦(対浦和レッズ、PK戦の末勝利)でも、ノボリ(登里享平)がオウンゴールをしたときに『ごめんなさい』と謝ってきたから、『大丈夫』と声を掛けました。

 僕らがゴールを奪っても、またゴールを奪われても試合はまだ終わっていない。へこむのも悔しがるのも、試合終了の笛が鳴ってからでいい。試合が終わる前に、顔を下げてしまってはダメだし、勝利するには冷静さを保つことが何より必要です。だから、そういうときは、『切り替え!』と言うようにしています」

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著者プロフィール

1977年、東京都生まれ。『ワールドサッカーグラフィック』の編集長を務めた後、2008年に独立。編集プロダクション「SCエディトリアル」を立ち上げ、書籍・雑誌の編集・執筆を行っている。ぴあ刊行の『FOOTBALL PEOPLE』シリーズやTAC出版刊行の『ワールドカップ観戦ガイド完全版』などを監修。Jリーグの取材も精力的に行っており、各クラブのオフィシャルメディアをはじめ、さまざまな媒体に記事を寄稿している。

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