川崎で数少ない、タイトルの味を知るGK チョン・ソンリョンが振り返る今シーズン

原田大輔

今シーズンのベストゲームはFC東京戦

ベストゲームに挙げたのは1stステージのFC東京戦。4−2の打ち合いを制した川崎らしい試合だった 【(C)J.LEAGUE PHOTOS】

 今シーズンのリーグ戦における自分自身のベストゲームを聞けば、1stステージ第13節のアルビレックス新潟戦を挙げた。その試合は0−0の引き分けだったが、「チームが思うように攻められない中、自分自身の好セーブによって勝ち点1を拾えた試合」だったからだと言う。

 一方、チームにとってのベストゲームには、4−2の撃ち合いを制した1stステージ第7節のFC東京戦を挙げた。

「開始4分に失点して、申し訳ないなという気持ちになっていたんですけれど、きっとこのチームならば、また追いついてくれる。そう思うよりも前(前半11分)に同点になっていた(笑)。あの試合で、僕は2失点したんですが、チームは最終的に4点を取ってくれた。一番後ろから見ていても、取り返してくれるんじゃないかと思っていました。チームメートの背中が頼もしく感じたんですよね」

 GKであるがゆえに「もちろん、1失点でもすれば悔しくて仕方がない」と話すが、彼にも紛れもなく、“超”攻撃的なサッカーを標ぼうする川崎のDNAが流れているのだろう。

「このサッカーを築き上げるまでには、かなりの時間を要したことは分かります。ただ、僕らが攻撃している時間が長ければ長いほど、相手が守備をしている時間も長くなるということ。守備のバランスが崩れてピンチになるときもありますが、それでも守るのがこのチームのGKとDFの役割。どんな状況でも、攻撃の選手は一生懸命走ってくれるから、後ろの選手たちもその姿を見て、全力を尽くそうと思えるんです」

「タイトルを獲れば、すべてが変わる」

CSという独特の雰囲気を醸すピッチの最後尾にはタイトルの“味”を知る男がいる 【スポーツナビ】

 川崎に加入してから自分自身も成長しているかと聞くと、チョン・ソンリョンは日本語で「はい」と即答。そして、「これは技術的なことではないんですが」と前置きしてから、教えてくれた。

「実は(1stステージ第14節の)ジュビロ磐田戦のウォーミングアップのときに、薬指を脱臼したんです。本当に試合直前でした。今までも練習中に指を脱臼して休んだこともありましたが、あのときは、痛み止めを飲もうが、注射を打とうが試合に出ようと思った。

 チームが首位争いをしている中で、大事な試合ということもあったし、Jリーグに来て初めての年でもあったので、少しでもチームの力になりたいという思いが強かった。きっと、それまでの自分なら、試合に出ることを回避していたかもしれません。そういう意味では、ここに来て自分も精神的に向上していると思います」

 2ndステージ終盤は右膝を痛めて離脱したが、11月23日に行われるJリーグチャンピオンシップ(CS)準決勝を前に、頼れる守護神は戻ってきた。10年の城南FC時代にはACL(AFCチャンピオンズリーグ)でも優勝を経験しており、川崎で数少ない、タイトルを獲ることの重みを知っている選手でもある。

「韓国では『タイトルを獲れば、すべてが変わる』という言葉があるんです。優勝と準優勝では全く違うと。自分自身のキャリアにおいても、優勝した経験というのは大きいものです。選手の価値も、クラブの価値も、すべてが本当に変わりますからね。だから、それをこのクラブにも、選手たちにも経験させてあげたい。

 大事な試合を勝ち抜くには、最初から最後まで攻撃も守備も集中すること。本当に勝ちたいという強い気持ちを、ピッチにいる選手だけでなく、ベンチにいる選手、スタッフとすべての人が持ち、ひとつになれるか。僕がタイトルを獲ったときのチームは、そういうチームでしたからね」

 いまだ無冠と、タイトルの遠い川崎だが、クラブ創設20周年となる今季は大きなチャンスである。間もなく迎えるCSという独特の雰囲気を醸すピッチの最後尾に、タイトルの“味”を知る男がいることは何よりも大きい。

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著者プロフィール

1977年、東京都生まれ。『ワールドサッカーグラフィック』の編集長を務めた後、2008年に独立。編集プロダクション「SCエディトリアル」を立ち上げ、書籍・雑誌の編集・執筆を行っている。ぴあ刊行の『FOOTBALL PEOPLE』シリーズやTAC出版刊行の『ワールドカップ観戦ガイド完全版』などを監修。Jリーグの取材も精力的に行っており、各クラブのオフィシャルメディアをはじめ、さまざまな媒体に記事を寄稿している。

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