世界一のカブスは“呪い”をどう解いた!? 108年の負の歴史に終止符を打った日

杉浦大介

呪いを吹き飛ばすほどの強いチーム

強力な先発陣の一角を担ったヘンドリックスは今季16勝、防御率2.13。サイ・ヤング賞候補に挙げられている 【写真:ロイター/アフロ】

 その言葉通り、シーズン中にメジャー最高の103勝を挙げた今季のカブスは、例え“呪い”が存在したとしても吹き飛ばしてしまうほどに強力なチームに思えた。

 先発ローテーションでは2人のサイ・ヤング賞候補、カイル・ヘンドリックス、ジョン・レスターと去年のサイ・ヤング賞投手ジェーク・アリエッタ、通算176勝のジョン・ラッキーが安定感を発揮。ブルペンには最速105マイルの豪速球を投げるチャプマンが控え、相手を恐れさせるに十分な陣容になった。

 打線にもクリス・ブライアント、アンソニー・リゾ、アディソン・ラッセル、ハビエル・バエスを始め、多くのヤングスター揃い。その周囲をゾブリスト、ファウラー、デービッド・ロスらのベテランが取り囲み、スキのないチームを構成してきた。

荒削りな若手たちが徐々に力を発揮

今季チーム最多の39本塁打を放ったブライアント。ワールドシリーズ序盤は不振だったが、第5戦に一発を放ち、チームを勢いに乗せた 【写真:ロイター/アフロ】

 そんなカブスにとっても、7戦までもつれたのだから当然だが、今シリーズは楽な戦いではなかったのは事実ではある。名将テリー・フランコーナ監督に率いられた勝負強いインディアンスの前に、4戦を終えて1勝3敗と大苦戦。ただ、すべてを終えて、相手の頑張りに追い詰められた後でも、最後はメジャーの今季ベストチームが順当に3連勝で勝ち残ったという印象も残る。

 王手をかけられた第4戦まで、ラッセル、バエス、ウィルソン・コントレラス、ブライアントは通算59打数6安打18三振と低迷。しかし、第5戦でのブライアントの一発で火がつくと、第6戦ではラッセルが満塁弾で6打点、今日の第7戦ではバエスが一発、コントレラスもタイムリー二塁打。場慣れしたのか、あるいはシリーズの中で成長したのか、荒削りな若手たちは徐々に力を発揮していった。

 天下分け目の第7戦では計8選手が打点を挙げ、コリー・クルバー、アンドルー・ミラーというインディアンスが誇る先発、リリーフの2枚看板から合計6点を奪ったのだから誰にも文句は言わせない。多くの若手がお膳立てし、最後にベテランの力で締めくくった。タレント集団という呼称がふさわしいカブスは、インディアンスより間違いなく層が厚く、経験も豊富で、そして優れたチームだった。

大きかったフロントのチーム作り

レッドソックスに続き、低迷したチームを世界一に導いたエプステイン球団社長(左) 【写真:ロイター/アフロ】

「ファンにはこの勝利を楽しんでほしい。“呪い”なんて存在しないんだ。これまでも存在しなかった。必要なのは最高のチームを作り、ワールドシリーズで良いプレーをすることだった。私たちはそれを成し遂げたんだ」

 試合後、歓喜のシャンパンファイトの中でジェド・ホイヤーGMが残したそんな言葉も心に響いてくる。2004年のレッドソックスに続き、またも低迷チームを頂点に導いたセオ・エプステイン球団社長を始めとするフロントの功績は大きい。

 彼らが成し遂げたのは、過去から引きずる“ゴースト”を打ち破ることではない。好選手を育て、タレントを集め、チーム一丸となって目標を向かっていった。2016年11月2日の大一番ですべてが結実し、カブスの負の歴史はついに変わったのである。

2/2ページ

著者プロフィール

東京都生まれ。日本で大学卒業と同時に渡米し、ニューヨークでフリーライターに。現在はボクシング、MLB、NBA、NFLなどを題材に執筆活動中。『スラッガー』『ダンクシュート』『アメリカンフットボール・マガジン』『ボクシングマガジン』『日本経済新聞・電子版』など、雑誌やホームページに寄稿している。2014年10月20日に「日本人投手黄金時代 メジャーリーグにおける真の評価」(KKベストセラーズ)を上梓。Twitterは(http://twitter.com/daisukesugiura)

新着記事

編集部ピックアップ

コラムランキング

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着公式情報

公式情報一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント